ルノー・日産連合の傘下入りが決まっていた三菱自動車の会長に、日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)が就任する。辞任を表明していた三菱自の益子修会長兼社長には社長留任を要請し、本人も了承した。果たして、ゴーン氏の狙いは何か。(ジャーナリスト 井元康一郎)
ゴーン氏は何の躊躇もなく
3つ目のポストに座ることを決断した
軽自動車の燃費測定に必要なデータを改ざんしていたことを自ら公表し、ルノー・日産連合の傘下入りすることが決まっていた三菱自動車。日産自動車による三菱自の株式34%の取得を月末に控えた10月18日、日産のカルロス・ゴーン会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)が三菱自の会長に就任するという報が自動車業界を駆け巡った。
「ゴーン氏が三菱自の会長になるのではないか」という観測は、早くから業界内にあった。しかし、本当にそうなるかどうか、懐疑的に見る向きも少なくなかった。というのも、ゴーン氏はすでに仏ルノー会長、日産の会長兼社長の2つのポストに就いている。果たして3つ目のポストを、強欲の謗りを押して強引にゲットするものだろうかという“常識”が懐疑の理由だったが、ゴーン氏は何の躊躇もなく三菱自の最高権力者に座ることを決断した。
「今考えれば、権力欲の強いゴーン氏が世評を気にして三菱自の会長に他の人材をあてるという見方は甘かった。ゴーン氏はかつて、コミットメント経営を標榜し、『目標を達成できなければ辞める』とまで言っていたことがありましたが、そのコミットメントを守れなかったときに記者会見で『株主が私を日産のトップとしてふさわしくないと言うのなら辞める』と言い放ちました。自分は日産の最大株主であるルノーの会長です。すなわち、自分がやめると決めたときが辞めどきということですよね。どこまでも日本のモノサシでは測れない人です」(業界事情通)
権力掌握は巧みにして“肉食”
長期政権を確定的にしたゴーン氏
実際、ゴーン氏の権力掌握は巧みにして“肉食”の一言だ。ルノー前会ルイ・シュヴィーゼル氏の肝煎りでミシュランからルノーに移籍し、2005年にルノー会長の座を禅譲された時点で長期政権を確定的なものにした。
そのルノーでは、ゴーン氏の経営者としての求心力は、実はそれほど強固なものではない。事実、「ゴーン氏の言うことを全部真に受けていても埒が明かない。言うことを聞いているふりをしていればいいんだ」と言い放つルノー幹部もいる。