出光興産と昭和シェル石油は、出光創業家の経営統合反対を受けて、統合延期を決めた。創業家の揺さぶりによって、両社には足並みの乱れさえも見え始めている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

 事実上の降参宣言だった。経営統合を目指していた石油元売り業界シェア2位の出光興産と同3位の昭和シェル石油が、出光創業家の反対を押し切って経営統合は進められないと判断。経営会社発足を延期すると発表したのだ。

 出光は、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)が保有する昭シェル株式のうち33.24%を取得した後、臨時株主総会を開催し、経営統合の承認を得て、2017年4月に昭シェルとの統合会社を発足させる予定だった。

 だが、統合の“拒否権”を握る出光創業家が反対のままでは、臨時株主総会での承認は得られない。会社側には創業家を説得し、翻意させる以外に手段はなく、統合時期未定とせざるを得なかった。

 しかし、石油製品需要は右肩下がりとなることが確実だ。人口減や低燃費車の普及で、ガソリン需要は今後5年間平均で、年2.5%減で推移すると予測されている。

 縮小する市場でどう生き残り、国のエネルギー安定供給に資するか。この危機感は所管する経済産業省も強く抱いており、再編は国の後押しもあって進められてきた。

 そうして15年7月に決まったのが出光・昭シェル経営統合だったが、今年6月、出光の定期株主総会で創業家が反対を表明したことで雲行きが怪しくなった。

 それ以降は出光経営陣と創業家がそれぞれ主張をぶつけ合い、事態は混迷。結局、出光経営陣が創業家を説得できず、今月、統合延期となったのだった。

昭シェル株譲渡をめぐって見え始めた
見解の相違

固い表情の月岡隆・出光社長(右)と亀岡剛・昭シェル社長。次の焦点は、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル保有の昭シェル株式の扱いだ。創業家の反対で経営統合の見通しが立たないまま出光が取得すれば、両社の溝は決定的になる Photo:JIJI

 「婚約発表後にゴタゴタしたカップルがうまくいくわけがない。もうご破算でしょう」

 事態の行方を見守っていた石油元売り業界や金融・証券業界では、すでに“婚約解消”という認識が大勢だ。実際、そう思わざるを得ない要素が幾つもある。

 その一つが月岡隆・出光社長の現状認識の甘さだ。記者会見で月岡社長は、経営統合に理解を得られるよう、創業家の説得を続けるとし、「必ずやご理解いただけるはずだ」と力説した。根拠は「(出光の)販売店各社から創業家に対して、経営陣と経営統合へ向けて話し合ってほしいという書簡が届けられており、創業家は重く受け止めるはずだ」というもの。

 だが、これは希望的観測にすぎず、甘いといわざるを得ない。そもそも、すでに3カ月間、経営陣と創業家は正式な話し合いの機会を設定できていない。それに、創業家側はそんな月岡社長の言葉を気にも留めていない。

 「販売店のご心配は受け止めますが、販売店は月岡社長に合併が最善だと説得され、思い込まされているだけ」(創業家代理人の浜田卓二郎弁護士)