先行きの見えない不況のなか、かつて設備投資のドライバーだったエレクトロニクス業界はいっせいに投資を絞り込んだ。ところがこの景気下でも、半導体工場並みの規模で設備投資を推し進める“新勢力”が水面下で勢力を拡大している。『ニッポンの素材力』(東洋経済新報社刊)などの著書を持ち、半導体・設備投資分野の取材で30年以上のキャリアを持つ泉谷渉・「半導体産業新聞」特別編集委員が日本の設備投資の“新胎動”を解き明かす。

 今年4月。昭和シェル石油が、宮崎県の日立製作所のプラズマパネル工場を買収、太陽電池工場に転用する検討を開始──とのニュースは大手各紙で報道され話題を呼んだ。だが、同社はこれにとどまらない別の動きを進めていることが筆者の取材で明らかになった。

 九州北部地区の工業団地と欧州で、この宮崎の工場の4倍にもなる最大で100万平方メートル以上にも及ぶ用地の買収を検討しているのだ。「日立の宮崎の工場をすべて買収しても必要な広さにまったく足りない」(関係者)からだ。

 同社の太陽電池の現時点での生産能力は計60メガワット。これを2011年までに1ギガワット──つまり約16倍──に上げる計画だ。

 関係者によると、これからの投資額はこれまでとはケタ違いにふくらむ。まず第一期として1500億円を投じる計画だが、最終的な大量産体制を整えるためには総投資金額は3000億~4000億円に上る可能性もあるというのである。

 昭和シェルの話は決して突拍子もない話ではない。じつは「100万平方メートル、3000億円」規模の太陽電池工場の建設計画は、九州から遠く離れた東北地方でもうごめいている。自動車、および電機大手企業が工場用地選定を極秘に進めているというのだ。

 「今後期待できる太陽電池の市場規模からすれば、1ギガワット程度の生産能力はどうしても必要」とある業界関係者は言う。太陽電池事業への本格参入を目指すのなら、半導体工場一棟分の3000億円の投資もいとわない──こんな投資行動に出る企業が、じつは続々と出てきているのだ。