いつも、監督たちが時代の何を感じているか、時代のどういう気分を描こうとしているのか。それが顕在化しているものなのか、潜在的なものなのか。互いの頭の中を探り合い、つばぜり合いのような議論を重ねています。

 普段、10本程度の企画を動かしています。その打ち合わせに参加していると、全く別のチーム同士が同じことを考えている瞬間に遭遇することがあります。「ああ、次に来る“時代の気分”はこれなのか」とはっきり見えるときもあります。これは映画人として生きている僕にしか見えていない景色だと思っていて、それを描くことが僕の小説家としての特長になると思っています。

ピンクは女の色?
幼少時からあった違和感ボックス

──“時代の気分”をつかむ上で「違和感ボックスを持つ」という習慣もあるようですね。幼少期の体験が影響しているようですが、いかがですか。

 小さいときは、親の方針で幼稚園や保育園に通わずに、虫捕りばかりしていました。家にテレビもありませんでした。それが、小学校で初めて人間の「集合」に出会いました。あるとき、先生が「粘土板を買ってきてください」と言ったので、ピンク色の粘土板を買いました。粘土が黒で汚いのでピンクがきれいだと素直に思ったのです。しかし、学校に持っていくと「なんで女の色を買ったのか」と笑われたのです。

「男の色が青、女の色がピンク」というルールを知らなかった。でも、これは誰が決めたのか。なぜ、そういうルールになっているのかと幼心に思いました。これが、「違和感ボックス」に入った一つ目の出来事だったかもしれません。

 このように案外、皆が当たり前だと思って積み上げていることは多くあります。エンターテインメントはコントラストで成り立つので、「当たり前」が「当たり前ではない」というだけで十分に面白い。小さいころに、そういうふうに脳がセットされてしまったのかもしれませんね。

──川村さんはジャーナリスト養成課程である上智大学の新聞学科に進まれています。それはなぜでしょうか。

 ドキュメンタリーに興味がありました。現実世界は十分に面白く、「ポストの上のクマ」は街中にいっぱいあるのだから、これをきちんと発信すれば物語になると思っていました。

 ですが、実際にドキュメンタリー作品を作ってみると、先生からは「アジテーション(扇動)し過ぎだ」と叱られました。写っているものは現実だが、切り取り方がドキュメンタリーとしてはダメだった。そのとき、自分がやっていることはエンターテインメントだと気付いたのです。