次々とやってくる黒船
日本ラバブル社と提携した直後、日本に駐在事務所を設けたのが、同じアメリカの下着メーカーであるエクスキュージットフォーム・ブラジャー社だった。
有名な会社だけに、幸一はその名を知っている。ある日、東京出張所のある人形町から隅田川を渡って日本ラバブル社のある門前仲町の方向に歩いていた時、まったく偶然に、ラバブル社と背中合わせのビルにその看板を見つけたのだ。そのときの驚きといったらなかった。
一難去ってまた一難である。考えている余裕などない。英語などろくに出来ないことも忘れ、躊躇することなく、すぐその場で玄関の呼び鈴を鳴らしていた。
西洋では、幸運の女神は後ろ髪がないという。果敢にチャンスを捕まえようとする幸一の機敏な動きに、女神はほほえんでくれる。いつもは外出の多い支配人のロスティーンと副支配人のリチャード・ソリアーノが、たまたま社内にいてくれ、すぐ面談に応じてくれたのだ。
驚いたことに、エクスキュージットフォーム社のほうでも、すでに和江商事の存在を知っていた。東京以外の地域でのシェアが高いことも調査ずみだ。
「あなたの会社を我々に売らないか? 君は当社の営業部長として処遇しよう」
それが彼らの口から最初に出た言葉だった。
八幡商業で習っていたから、まったく英語がわからないわけではない。会社を売れと言っていることくらい察しがついた。急いで飛び込んだことを後悔しはじめていたが、幸一がもごもご言っているうちに彼らのほうで勝手に軟化してきた。
「会社を売らないというのなら、近くアメリカ人モデルを販売員にして営業を始めるので販売提携をしないか」
会社を売るなどということがそう簡単にできるわけがないことを知っていて、幸一の反応を見ていたのである。
最初から彼らは提携狙いだったが、お前の会社を買ってもいいぞとジャブを打っておくことで、アメリカ企業の資金力の大きさを誇示してみせたというわけだ。このあたり、さすがにしたたかである。