今のサントリーの目標は「16年、17年、18年の3年間は、オーガニックグロース(M&A〈企業の合併・買収〉や為替の影響を除いた売り上げ増)を年率4~5%で伸ばすこと」(肥塚専務)だという。

 なぜ4兆円に対する発言の勢いが弱まったのか。理由はサントリーの財務状態にある。

 仮に16年からの3年間、既存事業で年率5%の売上高成長を達成しても、18年12月期の売上高は3兆1000億円程度。4兆円との間には9000億円のギャップがある。

 その差を埋めるためにはM&Aしかない。しかし、今のサントリーには、ギャップを埋められる規模の企業を買収するだけの手持ちのカネはない。財務面においては目下のところ、大型買収のために借入金を増やすのではなく、減らして安定性を高めることが優先事項になっている。

資金調達は必須もHD上場の可否で折り合わぬ創業家

 有利子負債が自己資本の何倍かを表し、企業財務の安定性を測る指標の一つにD/E(デットエクイティ)レシオがある。数値が小さいほど負債よりも自己資本が多いことを意味し、一般的に財務状態が健全といわれる。逆に数値が1倍を超えると、自己資本よりも負債が多い状態であり、安定性に欠けるとされる。

 サントリーの場合、有利子負債から現預金を差し引いたネット有利子負債を自己資本で割ったネットD/Eレシオが15年12月期で1.11倍となっている(図(3))。

「来年には1倍を下回る予定」(肥塚専務)で、当面は借入金の返済が優先される。15年12月期時点で1兆5629億円あるネット有利子負債は、今年から毎年1000億円程度、返済する予定だ。

 同じく財務の安定性を測る指標であるネット有利子負債のEBITDA倍率は、15年12月期時点で4.5倍。今のペースで返済し、事業が年率5%で成長すれば「18~19年には安定水準の3倍を下回れる」(同)と見込んでいる。

 財務状態が適正範囲に入ったとしても、直後にビームのような大型買収に動けば再び財務の安定性低下を招き、肥塚専務の言うように「無理をする」ことになる。

 そこでサントリーが“ウルトラC”として検討したのが、グループの持ち株会社であるHDの上場だった。未上場のHDを上場させれば、数千億円規模の資金が手に入り、健全な財務を保ちながら、次の買収に手を出せるからだ。

 実際、HDは15年夏ごろに「上場を検討していた」とサントリー幹部は認める。上場は長年維持してきた創業家経営の終焉を意味する。結局、創業家内部で折り合いがつかず、決断は見送られた。

 サントリーは1899年に鳥井信治郎によって大阪で創業された。以後4代創業家出身の社長が続き、国内で最大クラスの非上場企業として成長を遂げてきた。

 だが、今後は株式市場で多額の資金調達を行う海外メジャーとの競争を余儀なくされ、カネなくしては戦えないステージに立つ。

 創業家経営の維持か、それともさらなる大型買収を見据えた上場か──。サントリーは難しい判断を迫られている。