(上から)鱧とカボチャのムース(左)とバジルとスダチのグラニテ。翡翠ナスと蝦夷アワビにはミョウガと白味噌のソース。バターで焼き上げたカブにイタリアンパセリのソース

「カブという食材は僕にとっていわば定点観測です」

 生江シェフは言葉を続ける。

「季節によって味も変われば水分含有量も変わるから季節ごとの味を出せます。たとえば夏のカブは水分をたっぷり吸っていて食べると甘さを強めに感じます。それを活かしつつ僕は本枯れ節(かつお節)と利尻の昆布を使った出汁を使い牛乳を合わせて、水分が多く味もやや淡泊なカブに合わせて端麗な味をつけるようにします」

 日本各地の産物の特徴を活かしながら、それを独自のレシピでまとめあげていく。知識と技術と、その結果である料理を評価する市場(レストランの客)があってこそオリジナリティの高いレフェルヴェソンスの料理が出来上がる。その事実が小さなカブの中に凝縮している。じつに興味ぶかい。

 生江シェフの考える“東京の料理”にはもうひとつ、おもしろいことがある。

「味は環境や一緒に食べるひとに左右される。お客さまにどう食べていただくか。つねにいいフィーリングを探しています」

 それも日本には“解答”があるのだそうだ。

 京都・左京区にある緑に囲まれた料理旅館「美山荘」での摘み草料理、東京で茶道宗和流18代の宇田川宗光師匠が点ててくれた薄茶、千葉・香取郡で日本酒づくりを続ける寺田本家のひとたちと食べる田んぼの中でのおにぎり。さまざまな場所でいろいろな食事を楽しむ生江シェフの姿が、CNNの番組では映し出された。

 レフェルヴェソンスを訪れる客のなかで生涯フランス料理しか食べたことはないというひとはいないだろう。ゲストにも豊かな食の体験があり、生江氏の料理、たとえばカブを口に含むと、記憶の中にある各地の水の味、土の香り、潮風の匂いなどが脳裏によみがえることがあるかもしれない。

 ひょっとしたらこれこそレフェルヴェソンスならではのおもてなしではないだろうか。

お茶の心はもてなす心と言う生江シェフらしく、食事の最後には薄茶が点てられる

「食というテーマは、個人的な旅行とともに、アジアを取材する際に忘れてはならない重要な要素です。日本で取材した番組のなかでも視聴者からの評価がもっとも高いのは「食」です」

 さきに紹介したCNNのシニアプロデューサー、アマンダ・シーリー氏は、このように語る。

 同番組のシリーズのなかにはラーメンを取り上げた回もある。

「ラーメンは、スープと麺でできたとてもシンプル料理に見えます。しかし、地域性やその種類はとても複雑で奥が深いです」

 上質な雰囲気のなかで提供され、食材にも調理にも手のこんだレフェルヴェソンスの料理とラーメンを対等に論じては失礼かもしれない。でも我われが無意識のうちに“おいしい”と思っているものには東京の本質が詰まっている。そこに気づかせてくれる言葉といえる。

 東京でしか出合えない美味を評価してくれたCNNに感謝しつつ、ここにレフェルヴェソンスがある幸運を味わおうではないか。

[レフェルヴェソンス]
西麻布の隠れ家的ロケーションにある店ではスタッフの数も多くサービスも充実しておりもてなしにもいい。

東京都港区西麻布2-26-4
TEL 03-5766-9500
http://www.leffervescence.jp/