チュニジア、エジプトに始まった中東・北アフリカの政変は、ついに産油国のリビアに及び、原油輸出停止へと至った。

 リビア産原油は8割が欧州向けだ。結果、欧州原油市場(ブレント原油先物)は3月2日、2008年8月以来の高値となる116ドル(1バレル当たり。以下同)を付けた。「リビアの油田や積み出しの状況については情報が錯綜しているが、供給懸念は当面消えそうにない」(野神隆之・石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席エコノミスト)。これを受け、それまで反応の薄かった北米原油市場(WTI原油先物)も高騰、同日102ドルに達した。

 じつのところ、WTIの在庫はきわめて高い水準にあり、需給はむしろ緩い。ブレントに関しても、リビアの原油生産量は170万バレル/日で、仮に輸出全量停止でもOPECの余剰生産能力500万バレル/日で十分埋められる。

 だが、投機資金はこの状況を見逃さない。WTIでは、2月半ばからの1週間で投機筋の買い越しが3割以上増加した。ブレントでの投機資金の動向については実態が不明だが、かなりの資金流入がある模様だ。現在の相場の特異性は、WTIがブレントより高いという通常の関係が逆転し、その乖離が拡大していることだ。一因に、WTIからブレントへの〝投機資金シフト〟があると見られる。

  なお、日本の原油価格はもう一つの世界的価格指標であるドバイ原油スポットに連動する。「ドバイ原油では流動性の低さから投機はない」(芥田知至・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)というものの、ブレントに引きずられるかたちで上昇し、やはり110ドル前後が相場水準となっている。

 これ以上の高騰は、新興国の景気減速や先進国の景気後退をもたらしかねない。そうなれば原油需要は減退し、価格下落圧力となる。投機資金はその面を無視し、供給懸念のみを材料視している。つまるところ、現在の原油価格は行き過ぎであり、80ドル台後半~100ドル程度が当面の落ち着きどころというのが複数の専門家の見方だ。

 もっとも、「中東・北アフリカの混乱がこれ以上産油国に広がらなければ」というただし書きが付く。危惧されるのはイランだ。同国の生産量は400万バレル/日。もしリビアに加えこれが全量停止すると、前述のOPEC余剰生産能力を超える。さらに余剰生産能力の7割、世界の総生産量の1割はサウジアラビアが占めている。万が一、同国に問題が発生すれば「絶望的な状況」(野神上席エコノミスト)であり、相場は天井知らずとなる。

  サウジアラビアはエジプトやリビアに比べ国民1人当たりGDPが高いことから、最悪の事態となる可能性は小さいというのがおおかたの見方だが、予断は許さない。少なくとも、煙が晴れるまでの今後数ヵ月、原油相場は高止まりが続くだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

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