介護施設の新たなかたち“サービス付き高齢者住宅”の建設が怒涛の勢いで始まろうとしている。国土交通省が整備計画に325億円を計上した2011年度予算案が3月1日に衆議院を通過。大量供給を見据えて新規参入者が殺到している。だが「介護を自前で提供しない介護施設」の大量供給には、リスクが山積みだ。

過去最大規模で高齢者住宅の建設が始まる。だがそこで“介護が受けられる”かどうかは別問題だ(写真と本文は関係ありません)
Photo by Toshiaki Usami

 今、全国で毎週のように開かれる、あるセミナーに、建設・不動産業界の関係者が殺到している。

「空前のビジネスチャンス」「国のバックアップのある有望事業」と、景気のよい文句が飛び交う。「サービス付き高齢者住宅」の新規事業者向けセミナーがその正体だ。

 サービス付き高齢者住宅とは、「高齢者すまい法」の改正で来年度に誕生する、新しい高齢者向け住宅のモデルだ。

 これまでの高齢者住宅には、「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」「高齢者向け優良賃貸住宅」「高齢者円滑入居賃貸住宅」といったさまざまなタイプが存在し、わかりづらいと批判が多かった(下図参照)。このため、これらの高齢者住宅を統合して簡素化を図っているのである。

 ちなみに“住宅”と銘打ちつつも、高齢者住宅は、事実上、介護施設として機能してきたものも多い。たとえば、高専賃入居者の平均要介護度は2.6で、介護付き有料老人ホームに匹敵する。

 有料老人ホームも一定の基準を満たせば、この新制度に登録できるようになる。「有料老人ホームのなかでも国がお墨付きを与えた優れた施設が新制度で認定される」(沓掛誠・国土交通省住宅総合整備課課長補佐)ものと位置づけ、新制度を今後の高齢者施設の“スタンダード”にしたい国の思惑も垣間見える。

利用者も国も損する
新高齢者住宅の矛盾

 なぜ、建設・不動産業者がこの新たな高齢者住宅に群がるのか。

 じつは、サービス付き高齢者住宅には、史上空前の助成制度が用意されている。面積25平方メートル以上、バリアフリーなど、一定の設備基準を満たし、さらに生活支援・安否確認のサービス要員が常駐するなどの要件を揃えた施設には、新設・改修工事費に対し1戸当たり100万円を上限に補助金が出る。また、税制面や公的金融機関からの融資条件でも優遇される。