一方、沖縄振興予算や軍用地借地料、基地雇用などの面から、「沖縄は米軍基地負担の見返りを十分受けている」といった意見が少なからずある。沖縄経済が「米軍基地依存」と言われている状況について、目取真氏はどう考えるのか。

「沖縄の財政のうち、米軍基地から得られる利益は5%弱。これは、県知事を始め有識者たちが口を酸っぱくして言っていることです。しかし、本土のメディアや中央はこの事実に目を向けようとしません。結局、沖縄に基地を押し付けているという心のやましさを誤魔化すための手段が、経済的なメリットの強調なのです」

「すでに返還された基地の跡地利用がうまくいって税収が増え、雇用も増大したことなどもあり、基地に依存するより跡地を商業地や観光地にしたほうがいいと、多くの県民が気づき始めた。そこから、翁長知事を始めとする沖縄の自民党や保守派も反基地へ転じるようになったのです。ヤマトゥでは沖縄のこうした構造変化に気がついていない人が多い。もし沖縄が基地で潤っているというのであれば、他の地域でも基地を誘致して利益を享受したらいいじゃないですか。全国にも破産の危機にある自治体はたくさんあるわけですから」

結びつきを強める日米両政府
本土と沖縄の溝は深まる

 目取真氏はこれまでも米軍基地の不条理を訴えて長年、反基地運動に身を投じてきた。しかし、戦後70年が過ぎた今でも、沖縄の基地問題は一向に解決の兆しを見せない。むしろ「戦後から遠ざかるにつれ、沖縄と本土の溝は深まっている」と語る。

「先の大戦は、ヤマトゥの人からしたら遠い過去の話にすぎないのかもしれません。日本の首相も戦後生まれの世代となり、政府は『沖縄はいつまで昔の戦争の話を掘り返すんだ』という認識でしょう。しかし、沖縄県民からすれば、たった71年前の戦争を忘れてしまうこの忘却の早さは、一体どういうことなのかと問いたいのです」

 今でも沖縄県内の多くの学校では、沖縄の終戦日にあたる6月23日の慰霊の日が近づくと、平和学習を行い、若い世代に戦争の記憶を継承している。ましてや戦後の米軍統治から地続きで、いまだに基地が残っている以上、沖縄県民にとって戦争は決して遠い過去のことではない。

「ヤマトゥにいたら戦争について学ぶ機会も少ないでしょう。戦争を知らないヤマトゥの若い世代からしたら、沖縄の怒りを知ったところで言いがかりをつけられたような気持ちになるのかもしれません。土人発言をした大阪府警の隊員も若い世代でした。むしろ若い人だからこそ、こういった言葉が出たのでしょう」

「これまで日本は、アメリカの下についていたおかげで、ドイツやイタリアと違い自分たちの加害性と向き合わずにすんできました。でも、日本から一歩出たらそうはいきません。沖縄を含め他のアジアの国々は日本軍に虐殺されたという共通の記憶をもっている。沖縄が日本に怒っているという事実を受け止められない日本人は、アジアとだってうまくやれるはずがないんです」

 2016年12月22日、北部訓練場の返還記念式典が日米両政府の間で予定通り執り行われた。翁長雄志県知事が同月13日のオスプレイの不時着に対する抗議のため式典を欠席する中、菅官房長官は、返還について「沖縄の基地負担軽減に大きく資するものだ」と述べている。また、安倍晋三首相は同月27日に真珠湾に訪問し、犠牲者を慰霊した。日米両政府が結びつきを強めていく中、沖縄と本土の隔たりは、より顕著になっている。

◆目取真俊(めどるま・しゅん)
1960年、沖縄今帰仁村に生まれる。沖縄県内で教職を務めた後、文筆活動に専念。1997年、『水滴』が芥川賞受賞。近著に『目の奥の森』がある。