筆者の専門の一つに「通貨」がある。通貨・国際金融の教科書『通貨経済学入門』を日経新聞社から出版し、実際に慶應大学等の講義の教科書として使用している。改定も行い、今回の版も3刷となって、有難いことに好評を博している。
為替相場について書いた原稿も、昨年10月5日公開の『為替相場は今後「円安ドル高」傾向と予想する理由』では年末までの円安ドル高相場を予想。同じく11月2日『人民元の下落は当面続くと考える理由』では、最近の「人民安」を予想した。本稿や宿輪ゼミにおける分析については、その後、当局や金融機関から内容についての照会を多数受けた。そこで今回は、今年当面の主要通貨の動きを予想してみたい。
ドル円は円高ドル安へ
昨年後半はトランプが大統領選において当選し、基本となる経済政策「トランプノミクス」を発表、景気刺激的な内容によって米国の株式やドルが買われる「トランプ相場(トランプラリー)」となった(トランプノミクスについては本連載『2017年の世界経済はこの「4大課題」に左右される』参照)。
この景気刺激的な財政政策は同じ共和党のレーガン大統領のレーガノミクスを彷彿とさせ、当時と同様にドル高・高金利が予想されている。国債の発行が増加することもあり、国債の金利(10年物)が上昇するも、現在は2.5%程度で一服している。次期の財務長官は金融機関(ゴールドマン・サックス)出身のスティーヴン・マヌーチン(Steven Mnuchin、ロシア系ユダヤ人)である。すでに「ドル高」の方針の発言をしているし、今までの金融機関出身の財務長官(ルービンやポールソン)と同様に「ドル高」が基本姿勢であると予想される。金利上昇と相まって、年末までドル高が進行した。
今後もトランプノミクスに対する期待は高いが、相場は円高ドル安に転換することが予想される。一言でいえばトランプノミクスは、実現段階に入る今後は“縮小せざるを得ない”からである。風呂敷をこれ以上広げられないのである。しかも、トランプの米国第一主義が貿易縮小をもたらす可能性もあり、またドル高自体が米国経済に悪影響を与える可能性も注目され始めた。さらに、昨年末までのドル円相場や株式の動きは、ミニバブルの様相も呈していた。米国株価と為替は暴落とまではいかないが、下落せざるを得ないのではないか。
ちなみに過去、西暦の一桁が“7年”の年は金融危機が起こってきた。1987年ブラックマンデー、1997年アジア通貨危機、2007年サブプライム危機(翌年リーマンショック)となっている。10年ひと昔とはよく言ったが、バブルの経験も10年もすれば、代も変わり、忘却されてしまうということか。