最初に浮かんだ、「父親の書棚」

 最初に浮かんだのは、昔父親の書棚にあった百科事典でした。英文科を出ていたからなのか、父はそういった本をたくさん置いていました。そこで、最もイメージする「たたずまい」を表現できる色の組み合わせは、と考えているうちに、自然と「赤」と「金」でいこうと思いました。 

裁ち落とされた金箔(書籍は名著集第2巻『現代の経営』上巻)。実際のカバーと比べていただくと、「高くつく」という竹内氏の言葉の意味がお分かりいただけるだろう。

 次に考えたのは、「金」をどう表現するか。風格を出すには、インクではなく、やはり金箔押しをしたい。そんなことから金箔で囲むようなデザインが浮かんできました。箔押(はくお)しはこれまでも何度もやりましたが、だいたい表紙の中央あたりに使うことが多い。

 ところがこのデザインでは周囲を覆っています。やや専門的になりますが、箔押しは使う面積が多いほど加工代が高くつきます。周囲全体に箔を使うということは、書籍の大きさ分の箔が必要なので、とても高くついてしまいます。よくダイヤモンド社さんも許してくれたと思います(笑)。あと、箔を裁ち落とししていますので、紙を切る刃も痛めるそうなんです。ですから、この本は罪づくりな本ですね(笑)。

  本シリーズは、いまや定番としてすっかり定着した。昨年、ある雑誌が組んだ電子書籍の特集で、「アナログの本として残してほしい一冊」に本シリーズが選ばれたことを知ったときは、「デザイナー冥利につきる出来事でした」という。

竹内氏がプレゼン時に作成した小冊子。わずか6部しかつくられなかったという冊子は、背は丁寧に紐で綴じられており、すでに「名著集」のたたずまいを感じさせる。

 プレゼンの際には、小冊子をつくりました。これは本棚に並んだイメージや、細部の加工の細かさなんかも見てもらいたかったからです。書店店頭ではなかなか気がつきませんが、カバーは折り返したところにも加工が施してあります。これは店頭でのアピールにはつながりませんが、読者が手に取ったり、家で読んだりしたときに気がついてくれて、ドラッカーさんの本に相応しいと思ってくれればいいと思っています。

 この小冊子には後日談もあるんです。ドラッカーの奥さまであるドリスさんの手にも渡って大変喜んでもらえたそうです。

 僕自身とても緊張した仕事でしたので、非常に感慨深いものがあります。プレゼンよりもその後の微調整など、何週間もずっと細かい作業を繰り返していた覚えがあります。本文デザインもすべて担当させてもらいましたので、思い入れは大きいですね。

*次回、後編(4月18日公開)では、『ビジネス統計学』での思い出、それから編集者とのやり取りも語っていただきます。

竹内雄二
ブックデザイナー。
1966年、愛知県生まれ。
名古屋芸術大学を卒業後、編集プロダクションを経て、工藤強勝氏に師事。その後28歳で独立。
書籍の装丁から本文頁の設計まで幅広くこなす。
一年間に手がける点数は、約80冊。
http://home.t02.itscom.net/takeuchi/