中国各地域で、最低賃金の引き上げが相次いでいる。北京市は1月から21%、江蘇省は2月から19%、広東省と山東省は3月からそれぞれ26%、20%の引き上げを実施。大連市も4月から22%の引き上げを予定しており、今後も同様の動きが続くと見られる。

「経済成長に応じた例年の措置」(ジェトロ中国北アジア課)とはいえ、企業にとってコストアップ要因となるのは間違いない。

 なかでも、大連市は昨年7月にも引き上げを行っており、合わせて50%以上の上昇となる。日系企業はもともと相対的に高い賃金を支払っているため、最低賃金の引き上げがそのまま跳ね返るわけではないが、大連市の日系メーカー幹部は、「昨年は最低賃金の上昇率を超える賃上げを行った」と明かす。「労働市場が流動化しており、今の労働者は少しでも条件が悪いとすぐに辞めてしまう。それぐらい上げないと人材が確保できない」(同幹部)。背景には、昨年来の労働者不足が依然、解消していないことがある。別のメーカーによれば、人件費の上昇に加え「燃料費や原材料費の高騰、政府の外資企業優遇策の打ち切りも利益を圧迫している」という。

 実際の影響の度合いは、事業内容により二極化される。賃金上昇は国民の購買力向上にもつながる。したがって、中国国内向けにビジネスを行っている企業は、売り上げ増でコストアップをある程度、相殺することが可能だ。また、電機や機械などの製造業は、コストに占める人件費の割合が低いため、生産性向上での吸収の余地もある。

 一方、労働集約型で、日本などへの低価格製品の輸出を主としている企業は厳しい。広東省に生産拠点を持つある企業の社長は、「より人件費の低い、内陸部への移転も検討している。ただ、イタチごっこになるのかもしれない」とこぼす。

 年10%以上に及ぶ経済成長の反面で、格差は縮まらない。食品や住宅価格を中心としたインフレも続き、国民には不満がくすぶっている。労働者の所得向上は中国政府にとって最重要課題であり、3月5日に開幕した全国人民代表大会では、「所得倍増計画」も検討された。少なくとも今後数年間は、賃金は上昇し続けるだろう。

 いずれの進出企業もそれは覚悟のうえだが、対応するビジネスモデルを構築できているか否かで、明暗は分かれる。

 中国への進出支援を行うエーコマースの秋葉良和社長は、「コストダウンのための中国進出は、もう成り立たない。現に、欧米や韓国、台湾のその手の企業はすでに撤退した。残っているのは、変化を好まない日本の企業だけだ。彼らもいよいよ重い腰を上げざるをえないだろう」と断じる。

 中国ビジネスは、“淘汰”という新たな段階に入った。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

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