「交通事故ゼロを目指す」と聞いて、多くの人は実現不可能だと考えるのではないだろうか。しかし自動車メーカーや学術機関、そしてジャーナリストは、交通事故ゼロの実現に向かって動いている。3月8日、交通事故ゼロを目指すジャーナリストたちが、興味深いシンポジウムを開催した。
(自動車ジャーナリスト サトー タケシ)
「ZERO CRASH JAPANシンポジウム」は、ジャーナリストと学術研究者が組織する「ZERO CRASH JAPAN(ゼロ・クラッシュ・ジャパン)」が主催したもの。3名のジャーナリストと2名の学術研究者が交通事故をゼロにするための提言を行ったが、共通しているのは事故・衝突を未然に防ぐ予防安全技術が重要だという認識だった。
東京大学高齢社会総合研究機構の鎌田実教授は、次のように発言した。
「平成11年(1999年)からの10年間で、交通事故による死亡者数は大幅に減りました。衝突安全ボディ、エアバッグ、シートベルトなど、安全技術の進化の賜物です。しかしながら、現状の取り組みの限界が見えてきたことも事実です」
鎌田教授によれば、2010年の交通事故による死亡者数は4863人。1999年には年間9006人が亡くなったことを思えば、大幅減である。しかし、対前年比の減少幅は1%とこの10年間でも最も小さい。
「平成30年(2018年)に交通事故死亡者数を2500人以下にするという国家公安委員会の目標を達成するためには、なんらかのブレイク・スルーが必要です」(鎌田教授)
ジャーナリストの清水和夫氏もこれを受け、「これからは事故そのものの数を減らすことが重要となります。そのためにも道路インフラの整備、ドライバーの意識改革、そして自動車メーカーの予防安全技術が三位一体となる必要があります」と述べた。
「事故を減らす動きを応援したい」(清水氏)ということから「ZERO CRASH JAPAN」は「Safety of the year(セイフティ・オブ・ザ・イヤー)」を制定、今回は2つの取り組みに賞を与えた。
先端技術で交通事故を
予防する取り組みを表彰
ひとつは、ヤマト運輸とNECが共同開発した「See-T NAVI」。これはセールスドライバーに安全で環境に優しい運転をうながすシステムで、タッチパネル式の車載端末と携帯電話で運用する。セールスドライバーは、営業所を出発する際に携帯電話とBluetooth経由でダウンロードしたデータを車載端末に転送する。車載端末はデータを読み込み、事故多発エリアで注意をうながすほか、エンジン回転数や速度が非効率的なレベルに高まると警告を発する。
ヤマト運輸を取材したジャーナリストの島下泰久氏は、「安全運転やエコドライブとはいかなるものかを、はっきり目に見える形にした」と高く評価する。
もうひとつの「Safety of the year」は、富士重工の「EyeSight(アイサイト)」が受賞した。これは2つのカメラ(ステレオカメラ)が前方の状況を確認することで、危険を察知する安全システム。衝突の危険があると判断すると、まず警報音やメーター表示でドライバーに注意をうながす。そして必要とあらば自動ブレーキにより衝突の回避を図る。仮に回避ができなくても、衝突速度を下げることで被害は軽減する。