トランプの大統領令に走る緊迫
ハーバード大からの「3通のメール」
アメリカでトランプ政権が誕生してから10日あまり、多くの大統領令が発布され、世界が右往左往している。著者はトランプ大統領の人柄や施策の全てを否定するつもりはないが、昨今騒動になっている特定のイスラム圏からの入国禁止令に関しては、大学人として、アメリカが20世紀から積み上げてきた世界の学問の中心という地位を崩壊させかねない事態だと、極めて強い憂慮の念を抱いている。
現在、ハーバード大学でGSAS客員研究員の職にある筆者をはじめ、同大学の全教員、学生、招聘研究者宛てに、大学側から12月に1通、そして1月末の28日、29日に立て続けに2通、政権移行と入国管理に関するメールが送られてきた。
1通目は、クリスマスシーズンの帰省に不安を感じている学生に対し、「新政権はまだ誕生していないし、入国管理の仕組みがすぐに変わるわけでないので安心して年末休暇を楽しむように」との内容であった。ただし、不安を抱えている学生には「大学の心療内科の受診やカウンセリングを受けるように」というアドバイスが書かれていたので、トランプ氏が“口撃”を行なっている国の出身の学生は、相当ナーバスになっていたようであった。
年が明けて、筆者は学生と1月20日の大統領就任式をテレビで見ていたが、そもそも就任式を見に来ない学生が多く、選挙の開票時には大勢の学生が集まったことを考えると、ハーバードの学生のトランプ評がうかがい知れる。中には就任演説で泣き出す女性もいた。
そして、就任後間もなくこの入国制限である。ハーバード大学の対応は早かった。1月28日に教職員・学生に国際オフィスから2通目のメールが送られた。現在、入国規制されている7ヵ国以外にも、今後対象国が増える可能性があること、そうした大統領令は直ちに施行される可能性があることに注意を促す内容だった。学生・研究者には、不要不急の国外旅行は再入国ができなくなる可能性があることを示した上で、リスクを考えて判断してほしいという。
12月の「年末休暇を楽しんで」から打って変わって一転、メールの文章からも緊迫感が伝わってくる。12月のメールとの落差がいかにも不気味だ。筆者の近くにも、しばらくは怖くて国外に出られないという人がいる。
そして翌1月29日、ハーバード大学のキャサリン・ドリュー・ギルピン・ファウス学長から、全教職員・学生に向け、「We are ALL Harvard」と題した3通目のメールが届いた。海外からの学生・研究者ともにハーバードの大切な一員であり、外国籍の学生・研究員の活動に支障が出ないように、直ちに政府、議会、裁判所に訴えていくという内容である。アップルなどの企業のCEOがすでに述べているように、アメリカは移民の国であり、移民なくして経済活動は成り立たない。大学もそうである。