――ギャンブル依存症について、今までご覧になってきた患者ではどのようなケースがありましたか。

山下 自分の貯金を使いきってしまうのはもちろんのこと、家族が借金を数百万円工面した後も続けている方が大多数です。中には、親の年金にまで手を出してしまう方もいます。私が経験した最も深刻なケースだと、両親の積み立てた保険を解約し、土地の権利書もこっそりと売ってしまった方を診察したことがあります。結局その方は、本人の治療はもちろんのこと、ご両親の生活保護の書類も私が書きました。

ギャンブル依存症
やめられなくなるメカニズムとは

――「やめられないのは意思が弱いからだ」という意見を言う人もいます。

山下悠毅(やました・ゆうき)
帝京大学医学部卒業。東横恵愛病院医局員、たわらクリニック院長を経て、平成28年8月より榎本クリニック院長。日本精神神経学会認定精神科専門医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医
ブログ:プラセボのレシピ

山下 ギャンブル依存症は「意思の弱さ」といった性格が原因なのではなく、治療が必要なれっきとした「心の病」です。こういった間違ったイメージをなくしていくためにも、ギャンブル依存症についての正しい理解が広がることが必要だと考えています。

 まず、「依存症とは何か」について説明しますね。ギャンブル依存症は、大麻や覚せい剤などが原因の「物質依存症」とは異なり、「行為依存症」と呼ばれています。「私たちは、「のるか、そるか」といった、まさしくギャンブル状態におかれると、興奮してドキドキしますが、そのドキドキがやみつきになって該当行為をやめられなくなることを指します。ちなみに、万引きや盗撮が止められない方も、この「行為依存症」です。そのため、私は「行為依存症」を「ドキドキ依存症」とも呼んでいます。

――ドキドキしているとき、体内ではどのような変化が起こっているのでしょうか。

山下 人間の頭のなかを簡単に表現すると、「本能」と「理性」に分けることができます。本能は、大脳辺縁系という部分で、好き嫌いを決める偏桃体や、記憶に関わる海馬などからなっています。これは全動物に備わっていて「エサを食べたい、異性に接近したい」といった欲動のアクセルです。

 一方、理性を司っているのが前頭前野です。これは、人間が最も発達しており、「おいしそうだけど、今はお腹いっぱいだから後にしよう、異性に対していきなり抱きつかずにまずはデートに誘おう」というように、欲動に対してブレーキをかける機能を持っています。

 そして、依存症患者は、この脳の「本能」を司る大脳辺縁系の周囲に「依存の回路」が後天的にできてしまっているのです。

 ギャンブル依存症患者も、普段は「理性」を司る前頭前野のブレーキがきちんと働いているのですが、パチンコ店や競馬場の前を通りかかった瞬間、過去の記憶や快感が呼び起こされ、大脳辺縁系周囲の回路が強く活性化します。その結果、回路に多くの血液が集まり、前頭前野の血液量が少なくなる(※)ことでブレーキ機能が停止状態となり、アクセルが暴走してしまうのです。

※人は、アルコールを摂取すると前頭前野の血流が低下し、ブレーキ機能が低下することが証明されています。そのため、アルコールを摂取すると暴言を吐いたり、セクハラをしたりといった不適切な行為が多くなる傾向にあります。ギャンブル依存症では上記のような血流の動きはまだ完全には証明されていませんが、アルコール摂取時と同じようなメカニズムが脳内で起こっている、と山下さんは言います。