それこそプロの心構えだと思いました。田口先生はまた、イチロー選手とも親交があり、ある時イチロー選手が「先生、僕はグラウンドの中でできることはすべて終わりました」と言ったのだそうです。

 すごい言葉じゃないですか。グラウンドの中でできること、つまり試合でやれることはすべて習得したという意味だと思います。しかし、先生は「いや違うんだ。彼はさらに地獄に踏み出したんだよ」と言うのです。

 グラウンドの中でできること。それは試合だから一番重要なことではあるけれども、1日のうちでせいぜい3時間程度であるわけです。その他の時間、つまり1日のうちの21時間のなかで彼は勝負をすると言ったのです。

 プロにとってそれは「準備」などという生易しいものではありません。人生のすべてを懸けて自らを完璧に仕上げていくため、そこまで自分を追い込んでいくものなのです。プロが素人と決定的に違う部分は、不確実性をどこまで減らすかに命をすり減らしているということなのです。フロック(まぐれ)ではなく、コンスタントに実力を発揮する。それこそがプロのやるべきことだからです。

必要なのは笑われることではなく
笑わせることができるか

 野球選手にしても芸人にしても、観客が見るのは基本的には本番の姿です。これはビジネスパーソンも同じです。人に見せるのは、晴れの舞台も含め、仕事の現場であるわけです。本番でのパフォーマンスがもちろん一番大切です。しかし、その現場で行っていることは、全体の中では実はごくわずかなことに過ぎません。その裏にあること、つまりは準備をどこまで充実させて、その成果を最後に発揮するかが大事なのです。

 冒頭に出てきた元巨人の鈴木氏はさらに「それを感じない鈍感力も大切なのかもしれないが、勝負ごとには邪魔な部分でしょう。痛みを覚え、感じながら野球をやって欲しいのです」と言っています。

 これは鈴木氏の意味するところとはもしかしたら違うのかもしれませんが、私なりに解釈すれば、研ぎ澄ませて、研ぎ澄ませて、鋭敏になって、その痛みをも感じるほど準備を行い、最後の最後、本番の試合では自分を鈍感に持っていける。つまりはリラックスして、ベストパフォーマンスを発揮できることこそがプロのなせる技だと思います。

 どんなに周到な準備をしても、本番であがってしまっては意味がありません。その部分でのマインドコントロールもプロとしての重要な技量です。