「サブプライム・ローン」。金融市場に関心の薄い方であったとしても、今ではこの言葉を知らない人は、ほとんどいないことだろう。信用力の低い個人向け住宅融資を意味するこのローンを数百本単位で束にして証券化した商品を端緒に、それに様々な別種の証券化商品を組み合わせて新たな証券(投資商品)を創り出すという現代版の錬金術は、大本のサブプライム・ローンの焦げ付き急増で行き詰った。
ところが幾重にも証券化商品を組み合わせたがゆえに、保有者もまた仲介者も、その中身のどの部分に、どの程度のリスクが隠れているのかということすら分らなくなってしまった。
そこで、それぞれの証券のリスクの判断を専門家であるところの格付機関に任せることになる。もちろん任された専門家は、これまで培ってきた手法を駆使してリスクの程度を測り、格付けをしていった。
ただし、そもそもこのローン自体が“これまで住宅ローンを組めなかった人向けに用意されるという新しい商品”であったこと。貸し手である住宅ローン会社や金融機関は、証券化により第3者への転売で焦げ付きリスクを負わなくて住むことから、貸し出しては“束にして(証券化して)”転売、また貸し出しては束にして転売を繰り返すうちに住宅ブームのなかで安易な貸し出しが広がった。そして結局、予想外の不良債権化につながることになる。結果的に格付自体が信頼度に劣るものであることが、後に判明するのである。
もっとも個別商品の格付けに誤りはなくとも、発行額が急拡大したにもかかわらず、これらの証券が相対で売買されるという取引上の欠点(流動性の問題)があったことが、売却はおろか評価さえままならないという市場機能が失われた原因という指摘もできるだろう。
サブプライム問題が生んだ
「信用収縮」の世界連鎖
そしてこの点が欧米を中心とする、そしてやがて世界全体を巻き込んだ相互の疑心暗鬼から金融機関同士の取引が急低下するという「信用収縮(クレジット・クランチ)」につながり、景気に悪影響を及ぼし、株価にも住宅価格にも更なる下げ要因として作用することとなった。
信用収縮(クレジット・クランチ)とは、人間の体に例えると金融・資本市場という景気や経済にとって血管にあたるものが目詰まりを起こし、血液(マネー)の流れが止まったり巡りが悪くなっている状態で、資金を必要としているところに資金が届かない状態をいう言葉である。バブル崩壊後の最終段階で日本でも「貸し渋り」や「貸し剥がし」という言葉があったが、その状態をイメージしてもらうといいだろう。
米国では、その前段階として先に触れた証券化商品が、リスクの程度と在りどころがわからないことから売買不能、市場機能が失われ、評価も換金もできないという事態に陥った。時に資金繰りに困った(ヘッジファンドなど)保有者が、投げ売りをすると、そこで付いた(本来の実勢価格を大きく下回っているであろう)価格が独り歩きを始める。