戦後最大の金融危機を迎えている米国で、政策当局にとって頭の痛い問題が発生している。それは、“一般庶民の逆襲”とも言うべき、政府による金融業界救済に対する人々の反感だ。
その逆襲のために、政府が提案した金融安定化法案は、一時、米下院で予想外の否決となり、ニューヨークダウ平均株価は777ドルあまりの史上最大の下げを記録した。その後、同法案は修正のうえ何とか可決にこぎつけたものの、今後も、公的資金を使った金融機関の救済策には、一般庶民の反感が強い。
特に、今年秋には下院議員選挙がある。選挙民の反感を考えると、それぞれの議員は安定化法案の重要性は十分に理解していても、どうしても、救済策に賛成票を投じにくくなる。ニューヨーク在住の市場関係者の一人は、「反対票を投じた議員自身が、否決の結果に驚いていた」と指摘していた。
金融機関の救済は
米国でも不人気政策
洋の東西を問わず、税金を投入して金融機関を助けることに、一般庶民の反感を買うことが多い。金融セクターは、額に汗せずして、ただ多額の資金を動かすだけで多くの収益を手にしている。しかもそれで、一般庶民にとっては考えられないような年収を得ているとのイメージが強い。それに対する、一般庶民の感情は穏やかなものではない。
特に、つい最近まで好景気を謳歌してきた米国の中で、その恩恵を最も受けた分野は金融セクターだった。ウォールストリートの大手投資銀行は空前の収益に湧き、多くの金融マンが多額のボーナスを手にした。中には、数十億円という、通常では考えられないような額を得た投資銀行家もいた。
その一方、もの作りの実業分野では、多くの企業がアジア諸国などの競合企業との競争を意識して、給与水準の引き上げを躊躇する状況が続いた。その典型の一つが自動車産業だろう。ビック3でさえ、日本などの競合他社の追い上げを気にしなければならない状況が続いた。金融分野ともの作りの実業分野との格差は大きかった。