1.壁のレーゾン・デートル

 壁は破られる宿命にあるのか。各国の長期債利回りは軒並み節目とされる水準に低下し、攻防戦を続けた後、局所的に突破を始めた。

 具体的には、米国10年債利回りの3.1%、独10年国債の3.0%、日本の10年債の1.1%が長期金利の下限として意識されてきた。債券先物価格で言えば、141円に相当する。5月の債券相場は壁に上値を阻まれ、狭いレンジ内に留まっていたが、おそるおそる打診を始めた。

 債券市場参加者の気迷いは景気に起因する。世界景気は減速しているが、腰折れたり、後退局面に入るほどではない。昨年5月に発生したギリシャ・ショックは、欧州全体の財政金融不安に発展し、世界景気の二番底懸念を招く要因となった。

 確かに今年も、2月に中東情勢が緊迫化し、3月には日本で大震災が発生し、4月以降はギリシャなど欧州の財政不安が再燃している。もっとも、いずれも景気のトレンドを変える要因ではない。

 近年はCTA系ファンドの存在感が高まってきた影響もあり、各種の先物市場で移動平均、特に200日線が重視されるようになった。まさに現在、債券先物の中心限月は200日線(27日終値で140円91銭)での攻防となっている。

 ちなみに、超長期セクターの利回りは200日線を割り込み、先行して壁を突破している。先物の動意が乏しい分、市場のエネルギーが超長期債に流れ込んだ形になる。

 日本の債券市場に先駆けて、米国10年債利回りも200日線を突破している。独の10年債も3.0%の大台を割り込んだ。その他にも、上海株はすでに200日線を割り込み、下げが加速している。