山本幸三・地方創生担当大臣の「学芸員はがん」発言が炎上している。ただ、全国で文化財が存亡の危機に直面しているのは事実。観光活用を真剣に考えてこなかった国や文部科学省のありようにこそ、真の問題が潜んでいる。(ノンフィクションライター 窪田順生)
文化財の観光資源化は
アリかナシか?
先日、山本幸三・地方創生担当大臣が講演で観光振興について問われ、「一番のがんは文化学芸員。この連中を一掃しないと駄目」と発言したことが問題となった。
後日、「インバウンドを進める上では文化が非常に大きな観光資源となるので、学芸員の方々も観光マインドをぜひ持ってもらって観光を進める必要があるという趣旨で申し上げた」と釈明したものの、ネットでは以下のような批判の声があふれている。
「そもそも学芸員は研究などが仕事で観光ガイドじゃない」
「学芸員に観光マインドなんていらないだろ」
「外国人観光客ウケばかり狙っていたら日本の伝統文化を守れない」
なるほどなあと思う反面で、個人的にはかなりマズいことになっていると不安になった。
確かに、大臣の「学芸員はがん」「一掃」発言は論外である。文化財を観光資源として生かすにも学芸員の専門知識は必要不可欠だ。事実、全国には観光マインドをもってユニークな展示を仕掛けている学芸員さんも少なからず存在している。そういう基本的な認識不足と、大臣という地位の重さも勘案すれば、民進党やマスコミから辞任キャンペーンを受けることになっても当然という気がする。
ただ、一方でこの「失言」の巻き添えを食う形で、批判の矛先が「文化財の観光活用」にまで向けられてしまうのはよろしくない。批判している人たちが言う「日本の伝統文化を守る」ことさえも難しくなるからだ。
日本の文化財保護予算は年間約130億。80億程度だった2014年からは増加傾向にあるものの、他の先進国と比較して圧倒的に少ない。これは日本人が文化財を軽く見ているというわけではなく、ちゃんと理由がある。日本円で年間500億程度を注ぎ込むイギリスやフランスは、文化財を観光資源として活用しているので、それなりの収益が見込まれる。つまり、投資をしてもリターンが見込まれるわけだ。
文化財を金儲けの道具にするなんて、と眉をひそめる方もいるかもしれないが、収益が見込まれるということは、国や自治体はその文化財にお金をつぎ込む意義を見出すことができるということだ。
お金を注ぎ込むので、その文化財のメンテナンスはもちろん、音声ガイド、周辺施設の充実、イベントなども充実する。文化財としての魅力も高まれば観光資源としてさらに活用できる。リターンが見込まれることで、国や自治体から予算が出るという好循環が生まれているのだ。