インターネットが普及している現在は、中堅企業が経営の自立を実現するチャンスであり、そのためにITを活用すべきだということを、前回解説した。しかし、ITを活用しても効果が上がっていないケースは多い。それはなぜか。IT活用のための戦略が欠如しているからである。いくら強力な武器でも、闇雲に使っていては効果は上がらない。

 戦略を立てるうえでまず必要なのは、マーケットをセグメント化することだ。強みや弱みと、機会と脅威を抽出するSWOT分析を行ない、それに自社の「こだわり」や独自性を加味して、マーケットをセグメント化し、自社のポジションを明確にする。この際、大きくマーケットをとらえるのは中堅企業にとって得策ではない。1万社から10万社の単位で、マーケットを分割して考えるべきだろう。

 こうして決めた“よいお客様”に対し、ITを活用してアプローチし、関係を構築していくわけだが、ここにも落とし穴がある。IT経営を成功させるには、経営戦略やビジネス戦略だけでなく、「ビジネスモデル革新」と「マネジメントモデル革新」が必要になる。

ビジネスモデルとマネジメントモデル

 ビジネスモデルとしては、規模の追求ではなく、自社の付加価値を認めてくれるよい顧客と長い付き合いができるモデルが求められる。重要なのは事業の継続性であり、顧客とのリレーションシップを維持することだ。それをITが支えるという構図になる。

 さらに欠かせないのが、マネジメントモデルの革新だ。非成長経済では、売上の劇的な伸びは望めない。そのなかで利益を確保するには、高い付加価値を創造し続ける仕組みが必要であり、そこでは、人とシステムが共存し、連携することが重要になる。

 人とシステムの相互作用をもたらす切り口はたくさんある。売上・利益・経費などの情報をガラス張りにし、企業経営者、従業員、取引先で共有するだけでなく、目標の達成状況を常に把握して人事評価に反映させていくといった仕組みがあれば、従業員のやる気を引き出すことができる。また、注文した製品の作業がどこまで進んでいるか、顧客がわかるように情報を提供することで、安心感や信頼を得ることもできる。

 重要なのは、株主、顧客、従業員、パートナーの満足度を向上させ、社会への貢献度を高めるマネジメントモデルをつくり上げることだ。それによって、売上が3割減っても、利益が2倍になり、雇用が3割拡大する、といったことも可能になるはずだ。

 私が選考委員長を務めた経済産業省の「IT経営百選」では、売上高の成長率は5%しかなくても経常利益は毎年10%伸びているような企業も多かった。そこでは、ビジネスモデル革新とマネジメントモデル革新を実行したうえで、ITを活用したIT経営が行なわれている。これこそ非成長経済で中堅企業が目指すべき姿である。

(第3回に続く)