つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の一部を抜粋してお届けする。(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)
「負けない戦い」をしようとすると気づけば大きく負けている
スクープを連発した2016年に比べ、2015年はなかなか売上も伸びず、精神的にも辛かった。
しかし、辛い時期こそ、フルスイングする勇気を忘れないことだ。本当に辛くなってくると、過去の成功体験に縛られてしまう。「韓国ネタで当たったな」「皇室ネタで当たったな」「SMAPで当たったな」などと過去に売れたものの焼き直しに走ってしまう。「大きくは勝てないけど負けない戦いをしよう」という縮小再生産の発想で作ると、前よりも絶対につまらないものになる上に、思った以上に売れなかったりする。2015年の厳しい状況の中でも比較的売れたのは、オリジナルのネタ、独自のスクープをやった号だった。
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。
例えば、2015年9月10日号の「武藤貴也議員の未成年買春」。武藤議員が19歳の青年を相手に1回2万円で買春していた、という驚愕のスクープだ。しかも相手が男性の場合、売春防止法違反にはならないというオチがつく。こういったネタを右トップにするのは、すごく勇気が必要だった。「武藤って誰だ」と思われればそれで終わり。それでも低調な売上が続く中で少しだけ部数は上向いた。辛い時期は腕が縮みがちだが、そこは自分を奮い立たせて「今こそ、しっかり打っていこう」と思わないと、どんどん負のスパイラルにハマっていく。
思い切りやるから時代の空気は読める
しかも、思い切りバットを振ってみないとその時代の空気は読めない。ガーンと飛べば、時代の空気に合っていることがわかる。中途半端に当てにいくと、中途半端に負ける。それでは時代の空気もつかめない。中途半端な負けが積み重なって、気がつくと大きく負けてしまうのだ。負けてもいいから、とにかく振り切る。「どこに今風が吹いているのか」「人々が何を知りたいと思っているのか」「週刊文春に何を求めているのか」。世の中の空気を知るためには、思い切ってバットを振っていくしかない。
そういう意味で2016年12月に出した「ユニクロ潜入一年」は、フルスイングの企画だった。特にその時点でユニクロが世間の話題になっていたわけではない。しかも潜入取材によって、衝撃の事実が明らかになったわけでもなかった。そんな状況の中、「右トップ」で6ページやるのは「勝負」だった。それでも1年間実際に働きながら取材したという潜入の事実自体が圧倒的におもしろい。そこに懸けたのだ。