東芝、ソニーにとっての中小型液晶事業は、シェアがそれぞれ、東芝4位、ソニー7位なので、“問題児”に分類されます。さらに投資を続けてシェアの拡大を目指すのか、思い切って撤退するのか、いつかは判断しなければならない事業でしたが、両社とも単独でのシェア拡大には限界を感じ、事業統合を模索した、ということでしょう。実際、両社のシェアを合算すると、15.3%でシェアトップとなり、一躍“花形事業”に変身です。
東芝とソニーの統合は
日本の電機産業復活の試金石となるか
しかし、話はここで終わりではありません。花形事業になったとしても、シェアを維持し、さらにシェアを拡大していくためには、多額の資金を必要とする状況は変わりません。液晶以外にも多数の事業を抱える東芝とソニーにとって投資競争となるこの分野にどこまで資金をつぎ込めるのか、これは頭の痛い問題です。
そこで登場したのが、「産業革新機構」という政府系の投資ファンドです。今回の事業統合のスキームでは、東芝とソニーの中小型液晶事業を統合する新会社を設立。産業革新機構がその新会社に1000億円超を出資し、出資比率80%程度の筆頭株主になり、東芝とソニーは合わせても20%程度の出資にとどまる見通しです。革新機構の出資する1000億円は生産ラインの増設に使われ、生産能力を増強することになります。
問題児のままで中小型液晶事業を続けていては、大型パネルの二の舞になる。かといってシェアアップするには、多額の資金が必要。どうしたものかと2社が思案していたところに、日本の液晶事業を育成したいと考えていた革新機構が事業統合の後押しを申し入れた、という舞台裏が想像されます。
さらにこの事業統合は、中小型液晶の次に市場拡大が予想されている、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルの開発、増産も視野に入れた統合といわれています。有機EL市場は現在、サムスン電子がシェアの8割を握っており、日本勢は技術的には見劣りしないものの、量産化では出遅れていました。統合する新会社に、東芝とソニーの有機EL技術を持ち寄れば、性能の高度化とコスト低減を推進できると期待できます。
思惑通り、東芝とソニーの中小型液晶事業が“問題児”から“花形事業”に変身できるのか。これは東芝とソニーだけの問題にとどまらず、長年地盤沈下が続いてきた日本の電機産業復活の試金石にもなりそうな注目の事業統合です。