拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第21回の講義では、引き続き「技術」に焦点を当て、拙著『仕事の技法』(講談社現代新書)において述べたテーマを取り上げよう。(田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授 田坂広志)

商談や会議においては、顧客や出席者の表情、仕草、動作に注意し、「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力、「無言のメッセージ」を読み取る力を高めなければならない

相手の表情、仕草、動作から何を読むか

 今回のテーマは、「相手の表情や仕草から『無言のメッセージ』を読み取る、プロの技術」。このテーマについて語ろう。

 前回、商談や交渉、会議や会合における「深層対話力」を高めていくためには、「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力を高めていかなければならないことを述べた。

 では、どのようにして、この力を高めていくのか? 端的に述べよう。

 商談や会議においては、顧客や出席者の表情、仕草、動作に注意する

 それを行うだけで、確実に、「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力、「無言のメッセージ」を読み取る力が高まっていく。

 では、具体的に、どのような方法で、それを行うか?

 前回、廊下を歩きながらの反省会の場面を紹介した。これは、社内会議での企画部長と社長室長の表情と雰囲気について、「目も合わせなかったな」と語り合っている場面だが、今回は、商談の後、電車の中での反省会の場面を紹介しよう。A課長、B君、C君、D君の会話である。

A課長 「自分がプロジェクト企画を説明しているときの、先方のE課長の表情はどうだった? 自分には、熱心に聴いてくれていたように感じたが、B君、C君は、どう感じた?」

B君  「たしかに、熱心に聴いてくれていましたが、E課長は、特に、技術説明の箇所で、熱心にメモを取っていました。ただ、予算やコストの説明のところは、少し聞き流している印象を持ちましたが…」

A課長 「C君は、どう思った?」

C君  「そうですね…、予算やコストのところは、むしろ、F課長補佐が、細かくメモを取っていましたね」

A課長 「やはり、そうか…。E課長は、技術研究所の出身だからな。F課長補佐は、事務系の出身だから、自然に役割分担になっているんだろうな。D君は、どう思った?」

D君  「私は、先方の若手のG担当が、このプロジェクトの実施体制の説明になったとき、突然、腕を組んだのが気になりました。あの雰囲気は、我々が提案したプロジェクトの実施体制に疑問を持っているのかもしれませんね…」

A課長 「そうか、君は、それが気になったか…。G担当の、その仕草は気がつかなかったな…。あの席の座り方では、G担当は、自分の視野に入っていなかったからな」

 これが、商談の後の「直後の反省会」の1つの進め方だが、この会話の中に、「直後の反省会」で顧客や出席者の「表情、仕草、動作」を振り返るときの、3つのポイントが示されている。この場面で、「動作」というのは、「メモを取る」という動作が議論されている。別の場面では、「メモを渡す」という動作が重要になるときもある。このことは、後ほど話そう。

 では、3つのポイントとは、何か?