先日、顧問先企業の社長と話をしているとき「それって、モラルハザードではないか?」と思える事例があった。コトの発端は、同社の取引金融機関が、某地方自治体で扱っている中小企業融資制度の利用を勧めてきたことにあった。その制度を利用すると、「銀行からの借入金に係る利息がタダになる」のだという。
そんなバカな、と思って子細を確かめると、色々なカラクリが隠されているようだ。金融機関側が持参した「制度融資のご案内」を見ると、そこに記載されている借り入れ条件は建前だそうで、東日本大震災により対前年比の売上高が10%以上も減少していれば、その条件だけで借り入れができるのだという。ここでハザード-ランプが点灯。
売上高が10%以上も減少するというのは、大変な業績悪化である。遊休資産を売却したり、過剰債務を減らしたりするリストラ策を優先すべきところを、借金で食いつないでどうするんだ、といった感じだ。
いま以上に借金を増やせば返せなくなるぞ、という懸念に対し、金融機関側では「借りたカネで返せばいいんです」という理屈のようだ。なるほど、信用保証協会を利用した制度融資なのか。それなら金融機関の腹は痛まないわけだ。
「利息がタダになる」というのはセールス-トークのようで、実際には信用保証協会の信用保証料に対して、自治体が補助金を交付するのだという。しかも、借り入れたときではなく、完済できたときに交付するというのだから、自治体の腹も痛まない。
疲弊した馬の鼻先にニンジンをぶら下げて、果たしてどれだけ完走できるのか。「オレは馬か」と、社長が憤っていた。
中小企業を襲うモラルハザード
借入金による資金繰り安定の罠
他でも聞き回ったところ、このような融資制度を金融機関からセールスされた企業は多いらしい。当面の資金繰りが安定するからだ。ただし、そこには大きな勘違いが生ずることを忘れてはならない。
勘違いは、企業がキャッシュを手に入れる過程で発生する。元をたどれば、それは大きく3種類に分けられる。1つめは商品の販売に伴う売上高(それに伴う売掛金の回収)、2つめは増資、3つめは債務(銀行借入金など)である。これら3種に共通しているのは、いずれも「貸方項目」である点だ。特に、借入金を売上高として計上するのは粉飾決算の古典であり、ハザード-ランプはもはやショートしてしまう。
間違ってもそのような粉飾処理に手を染める企業はいないであろうが、通帳に記帳された残高が多いと、経営者の気持ちは大きくなる。数ヵ月も経過すると、それが借金を原資としたものだということを忘れてしまう。リストラ策の手綱が緩む瞬間だ。
10%以上も減少した売上高が、数ヵ月後に復活するメドがあるのなら、借金にも「効用」がある。しかし、大震災による減収は、確実に復活するものなのだろうか。それが見極められないのなら、中小企業融資制度には手を出さないほうがいいだろう、というのが、その場での結論であった。
自治体による融資制度の是非はともかくとして、東日本大震災から3ヵ月がすぎて震災復興策も出そろってきた。それがどこまでの効果を発揮するかは、今後の推移を見きわめなければ判断が付かない。果敢に打って出る、とはいかないところが、もどかしい。
何か手本になるものはないだろうか、と探していたところ、週刊ダイヤモンドの「企業特集」で、富士フイルムの社長インタビューが掲載されていた。記事の冒頭に「2度にわたる構造改革を断行し、筋肉質な会社に生まれ変わった」とある。なるほど、これは参考になる。
そこで今回は、構造改革に果敢に挑んだ富士フイルムの決算データを拝借して、同社の業績を分析してみることにした。当然のことながら、震災復興策とリストラ策は異なる。あくまで「追い風参考記録」と考えていただきたい。