秋入学を導入して採用維新を

 このように考えれば、秋入学という1つの「仕組み」は、単に大学の国際化に資するだけではなく、わが国の歪んだ「青田買い」という採用慣行を撲滅して、いわば採用維新を招来する大きな起爆力を秘めていることに気づかされる。

 グローバル企業の幹部は、国籍・性別・年令等のダイバーシティが進んでおり、またドクター・マスター等高学歴であることが多い。これに対してわが国の企業の幹部は、青田買いをスタートに内部昇格しているケースが多く、低学歴でかつダイバーシティはほとんどないと言ってもいい。これが彼我の国際競争力の格差の大きな要因となっている。経営陣や経営幹部のダイバーシティを必死に進めない限り、わが国の企業はグローバル企業に追いつけないと考えるが、秋入学をきっかけに、企業の側でも、採用について従来のやり方を根底から見直してはどうか。

 中長期的に見れば、秋入学の導入は、わが国の大学の国際競争力の底上げと同時に、これまでの採用慣行を根底から揺るがし、結果としてわが国企業の国際競争力を強化する大きなターニングポイントとなるような気がしてならない。そして秋入学の波紋は、採用慣行を根底から見直す採用維新だけにはとどまらない可能性もある。春入社を見直すことは4月~3月という事業年度を見直すことにも繋がるからだ。事業年度と暦年という使い分け自体を見直し、両者を一致させようという動きも出てくるのではないか。

 秋入学という「仕組み」は、小さな蝶の羽ばたきに見えるかも知れないが、以上のように考えてみると、近い将来に大きな風を呼び起こさないとも限らない。そして、このような大きな改革に、東大が率先して狼煙を上げたことに敬意を表したい。大きな改革は、中央中の中央か、辺境からしか生まれないことは人間の歴史が教える通りである。願わくは、他の大学も速やかに追随してほしいものだ。真似をすることは決して恥ではない。真似をすることによって人間の社会は進化してきたのだから。

(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)