拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第22回の講義では、「人間力」に焦点を当て、拙著、『人は、誰もが「多重人格」──誰も語らなかった「才能開花の技法」』(光文社代新書)において述べたテーマを取り上げよう。(田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授 田坂広志)

優れた経営者が見せる
「いくつもの顔」

 今回のテーマは、「『多重人格のマネジメント』で開花する『多彩な才能』」。このテーマについて語ろう。

 筆者は、永年、様々な企業の経営トップの参謀を務めてきたが、多くの優れた経営者を見て、いつも心に浮かぶことがある。それは、この疑問である。

 なぜ、一流の経営者は「多重人格」なのか?

 例えば、朝の経営会議では、経営幹部に対して収益目標の達成を迫る「辣腕のリーダー」の姿を見せるが、昼の若手社員との懇談会では「物わかりの良い親爺」の姿を示す。

 また、全社員が集まる社内イベントでは、会社のビジョンを熱く語る「情熱家」を演じるが、顧客へのトップセールスでは、気配り溢れる「営業パーソン」になり切る。

 商機を前にしては、「したたかな戦略家」の顔が現れるが、親交を深めた相手には、「人情味あふれる温かい顔」を見せる。

 筆者が見てきた優れた経営者の多くは、そうした幾つもの顔を持ち、場面と状況に応じて見事に使い分ける人物であった。言葉を換えれば、自分の中に「様々な人格」を持ち、それを場面と状況に応じて使い分ける、まさに「多重人格」と呼ぶべき人物であった。

 いや、これは企業の経営者だけではない。スポーツの監督、映画の監督、イベントのプロデューサ、地域のリーダーなど、分野を問わず、世の中の優れたプロフェッショナルを見ていると、誰もが、自分の中に複数の人格を持ち、それを見事に切り替え、使い分ける「多重人格のマネジメント」を、無意識に行っている。

 では、なぜ、優れた経営者や監督、プロデューサやリーダーなどのプロフェッショナルは、無意識にも「多重人格のマネジメント」を行っているのか?