台湾における
アドラー心理学とアカデミズム
古賀 韓国と台湾の違いで言うと、韓国では『嫌われる勇気』や『幸せになる勇気』を自己啓発書と捉えている印象が強いのですが、台湾では自分たちがこれまで知らなかった新たな心理学の本だと認識されている感じがします。それもあってか、真面目にしっかり読んでくれているという印象が凄くありました。
──台湾ではあまり『嫌われる勇気』の追随本が出ていないそうですが、いまおっしゃったことと関係あるかもしれませんね。
岸見 一方で、アドラー自身の著作の翻訳はけっこう出ています。たとえば、日本で『人間知の心理学』として訳出されている本もきちんと翻訳されています。書店にはアドラー心理学のコーナーもありました。こちらでは学問としての関心が高い気がします。私は今年2月に台湾アドラー心理学会に招かれて国立高雄師範大学で講演をしたのですが、その大学ではアドラー心理学が必修になっていると聞きました。大学でアドラー心理学がしっかり教えられているというのは日本と明らかに違う点です。
古賀 教える人を短期間で育てることはできませんから、『嫌われる勇気』が広まる前から大学では講義されていたのでしょうね。そういえば、セミナーイベントの司会をしていただいた心理カウンセラーの蘇絢慧さんも、大学院でアドラー心理学を学んでいるとおっしゃっていました。
岸見 教えられる人がいて、学ぶ人もいるというのは素晴らしいことだと思います。もちろん、大学で学問として学ばれていることと本が売れることは、直接的には結びつかないかもしれませんが。
──なぜアドラー心理学が台湾のアカデミズムに受け入れられているのかは、とても興味深いですね。
岸見 関係があるかどうかわかりませんが、アドラーの思想と孔子の教えが似ているという人は昔からいました。これは古い話ですが、アドラーに弟子の一人が「先生の考え方が剽窃されている」と言うので、「いったい誰の考えだね?」と尋ねたところ、その弟子が「孔子です」と(笑)。ひょっとしたら学問的に受け入れられている背景には、中国の古来の思想の流れにアドラーを関連づけようとした人の存在があるのかもしれません。
──ちなみに孔子と似ているというのはどのあたりなのでしょう?
岸見 はっきりとはわかりません。ただ孔子の思想には非常に現実的な面があります。「いまだ生を知らず、いずくんぞ死を知らん」など極めて現実的であり、そうした側面はたしかにアドラーにもあると思います。