これからの世界展開に向けて

──台湾、韓国、中国などのアジア圏に続き、今後はイギリス、フランス、スペイン、オーストラリアなど10ヵ国以上で『嫌われる勇気』の翻訳版が出ることが決まっています。これから世界でどのように読まれていくと思われますか?

なぜ『嫌われる勇気』は台湾で46万部の大ヒットになったのか?古賀史健(こが・ふみたけ) ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』および『幸せになる勇気』の「勇気の二部作」を岸見氏と共著で刊行。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。

岸見 どの国にも伝統的な考え方があるけれど、『嫌われる勇気』ではそれとは真逆の考え方が提示されるという意味で、一度読めばもはや元には戻れなくなるのだと思います。おそらくどこの国でも。そのなかで抵抗を感じたり、あるいは実践することの難しさに悩んだりしながら、アドラーの考えはその国独自の発展をしていくはずです。それが国ごとに具体的にどうなるかはわかりませんけれど。

古賀 内容は別としてタイトルだけだと西欧圏には刺さりにくいかもしれません。今年3月に取材でイギリスに行ったんですが、現地の人には『嫌われる勇気(The Courage to be Disliked)』というタイトルはあまりピンとこないと言われました。そうした勇気を持つのは本に教えてもらわなくても当然のことだと。日台韓あたりの人々には非常に刺さるタイトルなんですが。そういえば、すでにオーストラリア版とイギリス版のカバーを拝見しましたが、そこには「アドラー心理学」という語が出てきません。普通の self help(自己啓発)の文脈で編集されています。たぶん彼らからすれば、わざわざ日本人が書いたアドラー心理学の本を読む必要はないだろうということでしょう。オーストラリア版のカバーには「勇気」という漢字が入っていて東洋的な雰囲気を漂わせています。self helpだったら日本人の話を聞きたいという人はいるのでしょう。禅などの流れもありますから。

──なるほど、手に取るきっかけがどのようなものであれ、西欧でも多くの読者に是非読んでほしいですね。あの内容を読んでどんな反応があるか本当に楽しみです。それでは最後にまとめのひと言をお願いします。

古賀 『嫌われる勇気』は日本で160万部、韓国では51週連続1位という建国以来の記録を達成しました。台湾でも46万部と10年ぶりのベストセラーになっています。これだけ重なるともう偶然ではないでしょう。これから世界展開をしていくなかで不安も多いとはいえ、書いてある内容とその面白さについては疑いの余地がない、今回の訪台で改めてそんな自信をもらった気がします。ありがとうございました!

岸見 日本人だけに受け入れられる思想ではないことが、今回の台湾でのさまざまな経験でいよいよわかった気がします。『嫌われる勇気』がやがて古典と呼ばれるだけの力があること、アドラー心理学は時代や国を超えて受け入れられる普遍的な思想であるということを確信しつつあります。これからの展開がますます楽しみです。

(終わり)