エスノグラフィックリサーチに臨む時に、仮説を持ってはいけないと言われますが、筆者らとしては、仮説は持ってよいと考えています。ただし、対象者に仮説をぶつけて検証するのではなく、インタビューの中でギャップを咀嚼し、より深掘りするための次の質問に昇華させるべきだと思います。

 前述の任天堂の宮本さんの例で触れましたが、自分の持つ仮説と対象者の行動のギャップを認識できないと、何が新しい発見なのかすら分からなくなってしまう、ギャップに基づいて質問を昇華できないという問題が出てきてしまいます。

 特にこうした調査を日本で実施する際には、米国に比べ、対象者の属性に多様性がそこまでないこと、デジタルリテラシーに関しても、みんなが同じサービスやアプリを使っていることが多いことなどから、単純な観察で得られる情報は、もはや発見とは呼べません。

 潜在的なニーズをつかむためには、単純な観察から得られるものから、さらに深い部分をあぶり出す必要があります。自分が対象者の立場であれば、こういう思考で、こういう行動をとるだろうという仮説を事前につくっておき、インタビューの中では、その仮説とのギャップを確認していきます。そして、なぜギャップがあったのかをヒアリングするための次の質問に昇華することで、さらに多くの洞察を得られるのではないかと思います。

目的は新規事業の成功、
安直なアイデアで妥協しない

 最後に、引き出したニーズを良いアイディエーションにつなげるためのアドバイスをお話ししたいと思います。

 これまで潜在的なニーズの引き出し方についてご説明してきましたが、最終的にはインタビューで得たインサイトや潜在的なニーズを元にアイディエーションを行っていくことになります。ここで忘れてはいけないのは、そもそもの目的は、インサイトや潜在的なニーズを引き出すことではなく、新規事業につながるコンセプトを創出することであり、さらにその先にその事業を成功させることだということです。

 せっかく良いインタビューができ、ペインポイントが明らかになり、潜在的なニーズがある程度見えてきたとしても、それらを元に面白いアイデアにつなげることができないと何にもなりません。

 ここでのアドバイスとしては、対症療法にしかならないアイディエーションはしないということです。既存事業の改善や、何か新しい機能を追加するためのアイディエーションであれば良いのですが、新規事業を立ち上げ、成功させていくことが目的なのであれば、安直なアイデアには飛びつかないことです。焦らずあぶり出したインサイトや潜在的なニーズをじっくりと料理すれば、新規事業の成功確率をさらに上げていけるはずです。

 今回は、主に潜在的なニーズの引き出し方についてお話ししました。次回は、平井とBCGDVメンバーがざっくばらんに語り合う形式で、デザイン思考の取り入れ方など、デジタルビジネスをつくる現場ならではの話をお届けできればと思います。