東日本大震災でにわかに脚光を浴びたルネサスエレクトロニクス。自動車用マイコンで世界シェア1位を誇るが、その内実は赤字続きだ。中核人材の流出が続くなど構造改革待ったなしである。
「当社の那珂工場復旧のために、自動車メーカーなど国内外のお客様延べ200社、人数にして8万人を超える方がたに応援していただきました。おかげで6月から早期復旧できました」(赤尾泰社長)
3月11日に発生した東日本大震災は、自動車などの電子機器を制御する基幹部品のマイコンや、携帯電話などのシステムLSI(大規模集積回路)を製造する半導体大手ルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)に甚大な被害を与えた。
ルネサスといえばマイコンの世界トップ企業。なかでも自動車用マイコンではシェア43%を誇る断トツの世界1位だ。その主力工場が操業停止に追い込まれたことから、復旧には自動車業界をはじめ多くの企業が力を結集した。
そのような企業であれば、さぞや高収益企業だと思われそうだが、そうではない。長らく赤字に苦しんでいるのだ。しかも直近の3年間は、2859億円(2008年度)、1377億円(09年度)、1150億円(10年度)と巨額の最終赤字に陥っている(図①)。
いったいなぜか。理由は複数あるが、最大の理由はSoC(システムLSI)事業にある。
ルネサスの事業は半導体の種別により大きく三つに分かれており、売上高もほぼ3等分される(図②)。事業ごとの損益は公表されていないが、稼ぎ頭は先のマイコンで、自動車や白物家電向けのアナログICとパワー半導体はやや赤字。そして、携帯電話やパソコン、ゲーム用のシステムLSIが多額の赤字という構図だ。
その理由は大きく三つある。
一つ目は自社でシステムLSIの設計から製造まで手がけていることだ。この事業は多額の投資が必要なため、世の流れはファウンドリ(委託生産工場)への製造委託が主流となっている。しかしルネサスは、那珂工場と鶴岡工場(山形県)に最先端の300ミリウエハに対応するラインを持ち、多額の投資を行いながらシステムLSIを製造しているのだ。
二つ目は、国内セットメーカーの不振だ。たとえば携帯電話では国内向けの独自仕様、いわゆるガラパゴス化により市場はほぼ国内に限られてしまうため、米アップルや韓サムスン電子に納入している海外メーカーに比べて販売量が少なく、量産効果も得られない。
三つ目は、ルネサスの出自だ。ルネサスは03年4月に日立製作所と三菱電機の半導体部門が一緒になり、その後、10年4月にNECの半導体部門が統合してできた会社だ。そのため人員も工場の数も多い。固定費がそもそも高いのだ。