iPhoneでリアルタイムに
あらゆる情報を共有

 その後、ヴィクセスは年数店のペースで出店。2013年には新潟県長岡市にも店舗を出しました。そして、会社が拡大していくなかで、社内でのTalknoteの役割も徐々に変わっていったようです。

齊藤 「会社が大きくなっていくにつれて、初期のヴィクセスにあった“熱”を従業員一人一人に伝えていくことが難しくなってきたんです。会社が小さく、人が少なかったときは、営業後にみんなで飲みに行って、お互いが感じていること、考えていることをぶつけ合うこともできましたが、店舗数が多くなれば全員で集まるなんてことはなかなかできません。そこでTalknoteを使って、いろいろな情報を発信していくようになったんです」

 取材のとき、齊藤さんにiPhoneのTalknoteのページを見せていただきました。同社が設定しているグループは……

「日報」「提出物・週間報告」「月間目標」「総会」「イベント関連」「フードグランプリ」「サービス向上委員会」「感動UP大作戦」「サービス+α」「ファン獲得」「来店情報」「口コミ」「人事・人件費関連」「勤怠管理関係」「アルバイト人員」「アルバイトMTG報告」「突撃!!隣のバイトさん」「店長会議議題」「制作物依頼」「ワインその他酒類の案内」「料理全般」「店舗改善」「ESOLAショーケース共有」「水光熱費」

と多岐にわたっており、まさに「あらゆる情報がTalknoteでやりとりされている」という印象でした。

Talknoteのやり取りは主にiPhoneで。(写真:疋田千里)

 その一部を具体的に見ていくと、たとえば「アルバイトMTG報告」では、毎月1回行なっているアルバイトミーティングで話し合われた内容や、どのぐらいの参加率か、ということが投稿されているそうです。

 「店舗改善」は、「トイレを清掃しました」「店内の○○を修理しました」という報告が各店舗から上がってくるグループです。店舗の清掃や修繕はやって当たり前のことではあるのですが、「わざわざ報告をしてもらい、全社員で共有することで、まだできていない店舗のスタッフを『うちも早くやらなきゃ』と感化することができます」と齊藤さんはその効果を教えてくれました。

 「ワインその他酒類の案内」「料理全般」には、各店舗で提供している飲み物や料理にかんする情報がまとめられています。

 「口コミ」は、本部がチェックしたインターネット上の口コミ情報を、周知するために使っています。

 「突撃!!隣のバイトさん」は、アルバイトスタッフを紹介するグループです。特に、アルバイトスタッフがお客様に喜んでもらえるサービスや、会社にとってプラスになる仕事をしてくれたときには、店長が必ずアップして全社員で共有しているそうです。

 かつては、こうした情報を社内で共有するためには、「各店の店長が現場から吸い上げる→店長会議で情報を報告し合う→店舗に戻った店長が会議の内容を現場のスタッフに伝えて改善を促す」というプロセスが必要でした。しかし、Talknoteを使うことで、店舗の枠を超えて、すべての社員がダイレクトかつリアルタイムにつながり合い、情報の共有ができるようになったのです。

 これはコミュニケーションの「効率化」だと言えるでしょう。コミュニケーションの効率化によって、よりきめ細かく、深いところまで理念の徹底や知識の共有、意思統一ができるようになると、おのずと一人一人の仕事への姿勢や接客が変わっていきます。すると、業務のさまざまな面において「高度化」が起こるのです。

 齊藤さんが教えてくれた「花のプレゼント」についてのエピソードは、まさに接客の高度化の好例です。

齊藤 「ある店舗に50代のご夫婦が来店したときのことです。接客中に店長が2人の話を何気なく聞いていたら、その日はご夫婦の結婚記念日だという。そこで店長は一輪の花を買ってきて、帰り際のご夫婦に「ささやかな贈り物です」とプレゼントしました。思ってもいなかった出来事にご夫婦はとても喜んでくれたそうです。このエピソードは、Talknoteの『店舗改善』に投稿されて、全社員に共有されました。
 後日、別の店舗で、お客様から『遠方からの友人と久しぶりに食事をするので、ウェルカムプレートを用意しておいてほしい』というリクエストを受けました。その話を聞いたとき、店長は『ウェルカムプレートだけではつまらないな』と思い、ふと花のプレゼントの投稿のことを思い出したらしいのです。そして、『あっちが一輪挿しなら、こっちは花束を用意しよう』と、花束にウェルカムプレートをつけてお客様にプレゼントしました。遠方からの友人はもちろん、リクエストを出した当人も、予想外のサービスに大喜びだったそうです」

 このエピソードから、ある店舗の成功例が共有されることで、全社的なサービスの向上につながっていることがよくわかります。
 
 また、既存の従業員だけではなく、新しく入ってきた新入社員の教育にもTalknoteは役立っています。

齊藤 「新入社員が入ってきたら、『日報』や『料理全般』などのグループに登録して、過去のやりとりをさかのぼって見てもらうようにしています。そうすることで、こちらがいちいち説明しなくても、おのずと仕事に必要な知識やうちの会社の理念などをインプットしてもらえるんです」

 さらに驚いたのは、同社の企業理念である「他人本位」という考え方さえも、Talknoteでのコミュニケーションを通じて生まれたということです。

齊藤 「あるとき、社長の中元がTalknoteで『これからは他人本位な気持ちで働こう』という内容の投稿をしたんです。中元としては、きっと何気なく『他人本位』という言葉を使ったんだと思います。そうしたら、僕ら社員たちが『他人本位って言葉、いいですね』とすごく盛り上がって。それで『この言葉を企業理念しよう』という話になったんです」

 現在のヴィクセスにとって、Talknoteは単に日報などの業務報告を効率的にやりとりするだけのツールではなく、理念の共有、サービスの向上、従業員のモチベーションアップ、新人教育など、業務のあらゆる面において絶大な改善効果を発揮しているのです。