ワイス たくさんありますよ。たとえば、2005年8月、ハリケーン・カトリーナがミシシッピ州を襲ったとき、ハンコック銀行(ミシシッピ州を代表する金融機関の1つ)が示したリーダーシップはとてもよい事例でしょう。

 ハンコック銀行は、ハリケーンの被害を受けた地元住民のために、すぐに仮設の店舗を開き、手書きの借用書と引き換えに現金を貸し出しました。生活を立て直すにも、現金は手元にないし、銀行カードがどこにあるかもわからない。そういう人々のために、顧客であるなしにかかわらず、その場で現金を貸すことにしたのです。

 もちろん最終的に承認したのは経営陣でしょうが、「現金を渡しましょう」と提案したのは窓口係など現場の人たちだったそうです。彼らは日々お客さんと接していて、地元のコミュニティーの一員だという気持ちが強かったため、自分たちができることをやろうと立ち上がりました。

 これは思いやりに満ちた決断であったのと同時に、ビジネス的にも正しい決断でした。そのとき配った現金はほぼ返済されたばかりか、地元の顧客から絶大な信頼を得て、顧客を増やすことにつながったからです。これは素晴らしい事例だと思います。

リーダーに必要な自分への思いやり

佐藤 思いやりを大切にするリーダーシップを発揮するには、他人だけではなく自分にも思いやりを持たなくてはなりません。セルフコンパッション(自己への思いやり)はリーダーシップをうまく発揮したり、失敗から立ち直ったりするのにどのように役に立つのでしょうか。

ワイス 自分をもっと思いやりなさい、と言われると、「もう少し自分に甘くしてもいいんだ」とか「私の責任ではないと考えてもいいんだ」とか「完璧をめざさなくてもいいんだ」と考えてしまい、リーダーとしてのパフォーマンスは下がるように思えますが、実際はその逆。セルフコンパッションを実践すると、より効果的なリーダーシップを発揮することができるのです。なぜならば、自分を大切にすることは、他人を大切にすることにつながるからです。