様々な研究結果によれば、セルフコンパッションを実践すると、周りの人からのフィードバックを否定的なものも含めて素直に聞き入れる、他人の失敗を受け入れる、ともに問題を解決していこうとする、といったことを自然にできるようになるそうです。セルフコンパッションは意志力を弱めるのではなく、逆に強化するのです。それが積み重なれば、個人の目標も、チームの目標も、より効率的に実現できるようになります。

佐藤 授業ではどのように「セルフコンパッション」を学ぶのですか。

ワイス ついつい自己批判をしてしまうときや何か失敗してしまったときに、どのように自分に思いやりを示せばいいか、を学びます。

 授業では、私が最初に「これまでに失敗した経験、恥ずかしい思いをした経験はありませんか」「そんなとき、どんな行動をとってしまいましたか」などと質問をして、学生と議論をします。その上で、「私たちは自分にとってネガティブなことが起こったときにどんな行動を習慣的にとってしまうか」について科学的な調査結果をもとに説明します。

 次にセルフコンパッションを育むための瞑想をガイダンスに従って実践してもらいます。瞑想のあとは演習です。「全員立って、ペンを持って、ホワイトボードに仕事で失敗したときにどう行動したか、恥ずかしい思いをしたときにどう行動したかを書いてください」と指示します。その上で、自分の失敗体験、自己批判に陥ってしまった経験を話してもらいます。

「スタンフォードでいちばん人気の授業」(幻冬舎) 脳を鍛えるためのマインドフルネス実践法から科学的な実験データまで、自分を変えるヒントが満載

 最後がグループディスカッションです。小さなグループに分かれて、ホワイトボードに書いた行動をもとにお互いに質問しあいます。「なぜそんな行動をとったと思いますか」「次に同じようなことがあったら授業で習ったスキルを使って、どのように改善しますか」「他の人たちがもっとリーダーシップをとれるように促すには、どうしたらいいと思いますか」「チームメンバーが失敗から学び、自己批判的にならないようにするために何ができると思いますか」といった質問に答えることによって、自分も他人も思いやる方法を学んでいくのです。自分を思いやりながら、失敗にうまく対処する方法というのはある、ということを知ってもらいたいと思います。

佐藤 マインドフルネスから、コンパッション、セルフコンパッションへと、瞑想などで自分を鍛える手法が広がってきている、ということですね。

ワイス 学生は「マインドフルネス」の演習をとても気に入っているようですが、私は「セルフコンパッション」の演習もまた、非常に重要な演習だと感じています。なぜなら、スタンフォードの学生は一般的に自分に厳しすぎるからです。いわゆる優秀な人というのは、自己批判的な傾向があり、結果が出ないことに対して自分を責めがちです。しかし、「逆に自分で自分に思いやりを示したほうが結果が出る」ということを知ってほしいのです。多くの人々が自己批判の罠にはまっていますが、ぜひ日本の方々も「セルフコンパッション」を実践して、その効果を実感していただきたいと思います。

(参考ウェブサイト)
◆The Center for Compassion And Altruism Research And Education. “Global Directory of CCT Teachers.”
◆Stanford School of Medicine. “Mindfulness/Compassion.”
◆Stanford School of Medicine. “Mindfulness Resources.” October 2015.

リア・ワイス(Leah Weiss)
スタンフォード大学経営大学院講師。専門はマインドフルネス。ビジネスに最適なマインドフルネス実践法、個人や集団の目標を実現させるためのマインドフルネス活用法などについて研究。MBAプログラムでは選択科目「マインドフルネスと思いやりのリーダーシップ」を教える。ダライ・ラマ法王の協力によって設立された「スタンフォード大学共感と利他精神研究教育センター(CCARE)」にて、共感力養成プログラムの責任者兼講師を務める。健康、マインドフルネス、人生の目的、イノベーション、職場での協力関係などをテーマに独自のトレーニングやプログラムを開発し、ヘルスケア業界から金融業界まで多くの企業でコンサルティングを行う。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。2005年よりコロンビア大学経営大学院の入学面接官。2016年よりTBSテレビ番組審議会委員。『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、「スタンフォードでいちばん人気の授業」(幻冬舎)。佐藤智恵オフィシャルサイトはこちら