お茶屋さんや料理屋さんでは祭りを楽しむ客で賑わっているのですが、通りの人はまばらに見えます。この辺りの宵山の楽しみは、深夜の日付が変わる頃にやってくる長刀鉾のお囃子なのです。深夜のお囃子はあまり知られていないのですが、長刀鉾の囃子方だけが夜中に祭りの無事を祈り、八坂神社に奉納囃子をするのです。

 囃子方の編隊が鉾町を出発してお囃子を奏でながら歩くのですが、遠くの方から徐々に囃子が聞こえてきます。なんとも言えない鐘の響きと笛の音が近づくと、お茶屋さん辺りから芸舞妓衆を引き連れて、八坂神社に向かって人が集まってきます。夜中の静かな神社が一変し、囃子方を取り囲むように人が集まり、宮司の祝詞の後にお囃子が奉納されるのです。

 物悲しくも力強い囃子の響は、表現のしようの無い空気感を作り出すのでした。そして奉納囃子を終えると今度は祇園町の中を奏でながら、鉾町へと戻っていきます。道すがらに馴染みのお茶屋料理屋の前に止まり、お囃子を奏でます。まるで祇園町全体を清めるようなお囃子に聞こえるのでした。

 祭りの間はお茶屋や周辺の家屋は祇園さんの提灯を掲げ、季節に合った食を提供し、夏のしつらえで客をもてなしてくれます。祇園町の贔屓連中は自身も祭りを楽しみつつお客を楽しませ、この時だけの特別な空気感を味あわせてくれます。レアな祭りの一端を見せて楽しませる。もてなしのヒントがぎっしりと詰まっているのが祇園町なのです。