人を起点として変革を主導するリーダー、すなわち「人材マネジメント型企業変革リーダー」は、その人固有のリーダーシップの持論を持っている。

 例えば、我が国に「宅急便」のイノベーションを起こした小倉昌男の「経営リーダー10の条件」(『小倉昌男 経営学』日経BP社)や松下幸之助が語る『指導者の条件』(PHP研究所)など、優れた経営者が残した持論は、経験から学習した教訓が言葉に結晶化されていて、一語一句がリーダーとしての行動の原理原則になっている。

 両氏のものに限らずとも、創業経営者や中興の祖が残したリーダーシップ語録は数多くあるが、それらの持論をよく見ると原則の中に矛盾を見出すことがある。例えば「謙虚で控え目」でありながら「野心を持て」と言う。「個人の目標必達」を重視しつつ「利他的な協力」を求める。

 リーダーシップとは矛盾のコンフリクトを創造的に解決する営みである。一見矛盾する行動原則の併存こそ深みがあり、その矛盾を止揚できる人が優れたリーダーということなのであろう。

2つの知識創造活動と
インセンティブ設計原理

 ここで原則の矛盾とその止揚、言いかえれば矛盾の創造的解決という観点から、変革とその変革を担う従業員(エージェント)の適切な行動を引き出すインセンティブの組み合わせを考えてみよう。

 まず変革のルーツはエージェントが生み出す知識(アイデア)とその組み合わせであり、それを組織学習と呼ぼう。ジェームス・マーチは1991年に発表した論文 "Exploration and Exploitation in Organizational Learning," Organization Scienceにおいて組織学習には「探索モード」と「活用モード」の2つのパターンがあると言う。あとで説明する。