長期療養が必要な患者のために
見直しも求められている高額療養費

 このように高額療養費には家族みんなの医療費をまとめて負担を抑える仕組みもあるので、制度をよく理解して上手に利用すれば、入院や手術などをして医療費が高額になったとしても闇雲に心配をすることはない。

 ただし、すべての患者が安心して医療にかかれる制度かと問われれば、残念ながらそうとはいえないだろう。

 医療費は歴月単位(1日~末日まで)で計算される。そのため、1回の入院で高額療養費の自己負担限度額を超える自己負担をしたのに、入院期間がふた月にまたがったために還付を受けられなかったということはよくある。すぐによくなる病気やケガなら1回だけの話ですむが、原因不明の難病や慢性骨髄性白血病など長期療養を必要とする患者にとっては切実な問題だ。

 たとえば、医療費がかかるのが2ヵ月に1回40万円の場合、高額療養費の対象になるので、1ヵ月の自己負担額は8万1430円。これが続くと4回目からは多数該当にあたり、自己負担限度額は4万4400円に引き下げられる。1年間の自己負担額は約38万円ですむ。

 一方、薬の処方の仕方などによって、1ヵ月の医療費が20万円で、毎月、病院に通わなければならないケースでは、高額療養費の対象にはならない。毎月、6万円を払い続けることになり、1年間で72万円を自己負担することになる。

 1年間の医療費そのものはどちらも240万円で同じなのに、最終的に自己負担する金額には34万円もの差が出てしまう。薬を服用し続けなければ命をも危うい患者たちにとっては、お金の切れ目が命の切れ目になりうる可能性すらある。

 7月に始まった厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会では、今年も高額療養費の見直しが議題として上がっている。昨年は財源不足を理由に見送られたこの問題を解決するために、「自己負担限度額を年収に応じてさらに細分化する」「医療費の自己負担額に年間上限を設ける」といった具体策が提示されている。

 この費用の一部に当てるために、医療機関を受診した患者から1回ごとに100円を徴収するという案もでている。「100円程度ならいいじゃないか」と思う人もいるだろうが、収入が年金だけの高齢者や低所得層などには100円の負担増でも受診抑制につながるのではないかと心配する声もある。

 健康保険は、病気やケガで困っている人を国民みんなで助け合うために作られた制度だ。その費用は、病気で弱い立場にある人に負担を強いて「取りやすいところから取る」のではなく、税金や社会保険料などで支えるのがあるべき姿のはずだ。情けは人のためならず。やがては自分に返ってくるものだ。

 安心して利用できる医療システムは、今、病気で苦しむ人だけではなく、この国で暮らすすべての人に必要なものだ。そのための費用を、誰がどのように負担すると結論付けるのか。今後の社会保障審議会の議論を注視していく必要がある。