ほぼ毎年、夏になると熱中症への注意が呼びかけられるようになった。水分の補給、塩分の補給、休息、身体を冷やす……といったところが、対処の基本である。
特に「塩分」への注目度は高く、この数年は塩分を含むことを前面に出した商品が続々と登場している。今年に限っても、夏の水分補給にぴったりという「三ツ矢 塩サイダー」などが話題で、必要不可欠だが悪者扱いされていた塩分が日の目を浴びた格好だ。
ある年代以上の人なら、熱中症より日射病という呼称のほうがお馴染みだったはず。2つの関係については、日射病が熱中症に含まれる。熱中症のうち、日光の直射で発症するものが日射病なのだ。
呼称が熱中症に統一されるのと時期を同じくして、対処法としての水分補給の重要さが広く知られるところとなり、次に塩分(と糖分)の必要性もクローズアップされ、現在に至るという流れだろう。
むろん、水分補給にしろ塩分補給にしろ、近年になり「発見」された対処法ではない。医学的に常識だったのはもちろんだし、屋外で活動することの多い人々の間でも「水と梅干」といった具合にやはり常識だった。
またある種のスポーツドリンクは、もともと塩分補給を前提としている。たとえば、1980年より販売が開始された「ポカリスエット」などは「飲む点滴」が開発コンセプトで、極端に言えば「飲みやすくした生理食塩水」である。人間の体液に近い成分と浸透圧のため、水分や塩分の補給には最適なのだ(ただし、スポーツドリンクの中には塩分をほとんど含まないものもあるので、選ぶ際には注意が必要だ)。
にもかかわらず、水分と塩分という常識が、それほどクローズアップされてこなかった理由は、まず熱中症の怖さが広く知られていなかった点にあるだろう。事実、日射病の呼称が一般的だった頃には、「休めば直る」で済まされることも多かった。
また塩分のとり過ぎが成人病(生活習慣病)の原因の1つであるため、「塩」へのイメージが悪かったせいもある。ふだんの食事で十分なはずの塩分を、わざわざ飲料で摂る必要はないという思い込みだ。
苦行を強いる精神論を背景に、「運動時には水を飲んではいけない」などの極端な常識がまかり通った時代もあった。しかし、それから数十年を経た現代は「適度に」の時代である。適度に塩分、糖分、水分を補給し、電力ピークを睨みつつほどほどに冷房を使い、ほどほどに休憩を取りながら夏を乗り切ろう。
(工藤 渉/5時から作家塾(R))