◇独自の生態系は真似られない

 おもしろいことに、深センでは有名企業の海賊版だけでなく、どこにもないような商品も売られている。たとえばキーチェーン型、ラジカセ型、ミニカー型の電話がそうだ。彼らは最初、既存電話のクローン版を作るところから始めたが、やがてさまざまなアイデアを追求しだした。

 こうしたイノベーションが可能なのは、深センの工場に技術力が備わっていることに加え、巨大電話会社の技能にもアクセスできる環境があるからだ。というのも、秘密の図面がそのあたりの店で売られているのである。

 深センはシリコンバレーと同様、完全な「生態系」となっており、もはや真似るのは困難だ。知識生態系の重要な部分が、すべて深センに集約されているためである。

 もし深センと競合したいのなら、彼らのようにリスクと実験を喜んで受けいれること、そして失敗してゼロになってもかまわないという覚悟が必要だ。それは先進諸国にとって「後退」のように思えるかもしれない。しかし、もはや安全性は美徳ではない。リスクを取らなければ繁栄が得られない時代に、私たちは生きているのである。

一読のすすめ

 これはあなたの原則をアップデートするための一冊だ。また、メディアラボやイノベーションの現在地について、貴重かつ有益な知識をもたらしてくれる一冊でもある。かつてSF作家ウィリアム・ギブスンは、「未来はすでにここにある。単に均等に配分されていないだけだ」と語った。そういう意味で、まさしく本書には、未来が描かれているといえよう。

評点(5点満点)

著者情報

伊藤穰一(いとう・じょういち)

 ベンチャーキャピタリストとして世界的に知られ、現在MITメディアラボ所長、PureTech Health取締役会長のほか、ニューヨーク・タイムズ、ソニー、マッカーサー基金、Knight Foundation、デジタルガレージなどさまざまな組織の取締役を務める。日本ではNHK《スーパープレゼンテーション》のナビゲーターとしても著名。著書に『ネットで進化する人類』『「プレゼン」力』(山中伸弥氏と共著)など。本書は自己の哲学を網羅的にまとめた初の本格的著作。

ジェフ・ハウ(Jeff HOWE)

 ワイアード誌コントリビューティング・エディター、Inside.comでのシニア・エディターや、ヴィレッジ・ヴォイスのライターなどを務め、現在はノースイースタン大学助教授、MITメディアラボ客員研究員。「クラウドソーシング」というタームの生みの親。著書に『クラウドソーシング』など。

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