ただし、薬剤情報の提供は有料だ。現在は、薬剤情報提供書を発行すると原則的に月に1回、医療費が100円かかる。これにも健康保険が適用されるので、70歳未満の人は3割の30円を自己負担する。同時に、おくすり手帳に処方された薬の名称などが書かれたシールを貼ってもらったり、書き込んでもらったりした場合は、「手帳記載加算」の医療費が30円上乗せされるので、患者負担は3割の9円。薬剤情報提供書だけのときよりも自己負担額は10円程度多くなる(おくすり手帳自体は無料)。

 患者の権利意識の高まりからか、直接的な医療行為や薬ではない「情報」にお金を支払うことに納得できないものを感じている人もいるようだ。実際、この診療情報提供料を払う、払わないでもめるケースもあるという。

 たしかに、調剤薬局の中には、少しでも収入を増やすためにおくすり手帳に薬剤情報を書き込んだり、シールを貼ったりしているところもあるようだ。そうした調剤薬局では患者へのアドバイスもないがしろになりがちだ。こうしたやり方は褒められたものではないが、本来の目的でおくすり手帳を利用すれば医療の安全を守る上で重要な働きしてくれる。

 薬というものは正しく飲めば病気の回復を助けてくれるが、間違った使い方をすれば毒にもなる。場合によっては死に至ることもあり、慎重に服用しなければいけないものだ。ひとりの患者が、内科、整形外科、歯科など複数の医療機関を受診することはよくあることで、医師や薬剤師などが情報を共有して、その人のアレルギー、薬の飲み合わせや過去にあった副作用をチェックして薬を安全に処方する必要がある。

 たとえば、心筋梗塞の人などに処方されるワーファリンという薬は、血管の中で血液が固まらないように予防するものだ。血液をサラサラにする薬なので、この薬を飲んでいるときにケガをして出血すると、血が止まりにくくなることがある。歯科医院で抜歯をするときなどは注意が必要だが、診察前におくすり手帳を見せておけば必要な処置を講じることもできる。

 また、旅先や外出先で体調を崩して、いつもと違う医療機関にかかった場合も、おくすり手帳を持っていれば、いつも服用している薬の情報がわかるので、適切な治療を受けやすくなる。東日本大震災では医療機関や医師自身も被災をして、これまで通りに診療ができなくなったり、患者の診療情報が津波で紛失したりした。筆者が話を聞いたおばあさんも、おくすり手帳を見せたことで、避難所での治療の助けになり、これまでと同様に薬の処方をしてもらえたという。