平和を実現するために
戦争を研究する

 英国の著名な戦略思想家、ベイジル・リデルハートは、英ブラッドフォード大学のマイケル・パフ教授の論文の中で、このように述べた。

「たくさんの平和主義者の友人と付き合っていて、彼らの意見にもちろん共感する。しかし、戦争の廃絶ということではほとんどがっかりすることが多い。なぜなら、彼らの強烈な平和主義の中には、ケンカっ早さが見えてしまうからだ」(PACIFISM AND POLITICS IN BRITAIN 1931-1935)

「平和」を愛する人たちは、自分たちの主張が確実に正しいと思っている。だからこそ、自分たちと異なる主張をする者たちを受け入れられない。説き伏せたり、選挙などで失脚させたりすればいいが、それができなければどうするか。「平和の敵」である「悪」は力づくで取り除くしかない、となるのだ。

 ラブ・アンド・ピースを信条として、「反戦」のメッセージを強く押し出した曲も歌ってきたマドンナが、トランプ批判の勢いあまって、「ホワイトハウスを吹き飛ばしたいって、心の底から思ってる」なんて口走ってしまうのは、この「ケンカっ早さ」が原因だ。

 このように「平和の敵」を「打倒」して、徹底的に「倒せ」ということを突き詰めていくと、ユダヤ人たちに憎悪を向けたナチスドイツの姿と重なっていくというのは言うまでもない。

 こういう歴史の教訓がある欧州では、「反戦平和」を唱えるだけでは、その時代や社会のなかで「平和の敵」とみなされた人々が憎悪を向けられるだけで、なんの解決にもならないということに気づいている人が多い。だから、多様な見方をすることが推奨される。その代表が、「戦争学」という学問だ。

 軍事利用される研究を大学側がボイコットすることがブームになっている日本の大学にもし、こんな学部が設立されたら、「反戦平和の闘争」を掲げて笛を吹き鳴らす人々が押し寄せてきそうだが、「戦争」という言葉を耳にしただけで条件反射的に「反対」を叫ぶ「朝日新聞」にも、その存在意義がちゃんと説明されている。

『戦争学部は、英戦略家リデルハートの「平和を望むなら、戦争を理解せよ」という理念を基にする。あらゆる学問の英知を結集して、戦争という現象を徹底的に検証する』(2015年2月20日 朝日新聞)