写真奥に見える白いタンクが、地下水を汲み上げるポンプ。2畳ほどのスペースがあれば問題なく掘れるという。

 東日本大震災以降、緊急時の避難場所、家族の集合場所、食べ物の備蓄など、非常時の暮らしについて検討している家庭が多い。その中でも水道・ガス・電気など、生活インフラに対する心配は小さくないだろう。

 そんな折、自宅での「井戸掘り」が注目されているのをご存知だろうか。トイレ、風呂、洗濯、炊事などに、地中から湧き出る自然水を活用するのだ。一度掘ってしまえば、井戸から使用した水は水道代がタダ、ポンプで汲み上げる電気代も微々たるものとあっては、井戸に魅力に感じる方も多いはず。

 とはいえ、「お金がかかるのでは?」「自分じゃできないし」というイメージが強いのも事実。ネットで検索してみても、50万円、100万円、高いところでは300万円といった工事費が……。

「一般的な井戸の掘削は掘り始めるまでいくらかかるかわからないため、高価格になりがちなんです」

 最近の井戸掘り事情について話を聞いたのは、『しろい古里保存会』の会長・押田春男さん。同会は現役をリタイアした人たちが中心となって、千葉県白井市を拠点に井戸掘りを行なっている。まず、作業の流れを整理してもらった。

「依頼を受けた後、打ち合わせの手間などを省くために、住所地図から地質を調べ、水が出そうか否かを確かめます。作業当日は、朝の8時頃から作業を開始。たいていの場合、13~14時には水が出てきますね。キレイな水が出始めるのが16時ぐらい。ポンプの設置まで入れて、本当に1日で終了します」

 押田さんはさらっと言うが、「1日で終わる」というのは実は驚異的なスピード。さらに驚くのは工事費の安さだ。

 同会では、一律25万円で作業を請け負っている。別途汲み上げ用ポンプを付けてもプラス13万円。「『安すぎる』と不安がられたこともあります」と笑う。手をとって感謝されるばかりで、目立ったクレームなどはないそうだ。

 今回話を聞いたのは、以前に同会が掘ったという団地の防災用井戸の脇。時間が経つにつれ、1人、2人と団地の人たちが集まってきて、「あっという間に水が湧いてきてびっくりしたよ」「水やり、洗車に大活躍だわ」といったおしゃべりが始まり、まさに“井戸端会議”に華が咲いた

 遠くの親戚より近所の他人。緊急時ならなおさらだろう。有事を想定して井戸に注目するのであれば、井戸そのものと同じく、その存在によって生まれる地域コミュニティが大きな助けになるのではと思う。

 井戸が地中から汲み上げるのは水だけでなく、地域に根付いた優しさや温もりなのかもしれない。

(筒井健二/5時から作家塾(R)