定年後の自らの姿から逆算して、働き方を見直す必要性

 それではなぜこれほどまでに会社本位の働き方になるのだろうか。もちろんいくつかの理由があるのだが、一つは日本の組織内にある人と人との結びつき方が関係している。

『定年後 50歳からの生き方、終わり方』
楠木新著
中公新書 定価780円(税別)

 この社員同士の結びつきについて例を挙げて考えてみよう。たとえば、ある化学関係の会社の研究員に話を聞いてみると、公式の会議で上司やリーダーに対して会社の研究体制を厳しく批判する若手社員もいるそうだ。そういう社員に限って高い技能を持っていて研究熱心な人が多いらしい。

 そういう批判的な発言があった時は、会議を統括するリーダーは、「君の見解はもっともだ」とその場では意見を受け止める姿勢を示しながら、次の定期異動で、その若手社員を他部門に異動させるという例があったという。

 このリーダーは、共有する場の均衡状態を確保するために、会議では若手社員の意見に同調する姿勢を示している。しかし実際には意見の適否の問題ではなく、彼は、その発言した研究員を一緒に場を共有できる社員ではないと判断したのである。

 これらの共有する場で仕事を進めるための態度要件を一言でいえば、「お任せする」「空気を読む」の二つである。

「お任せする」ためどうしても、他人に物事を委ねることになり、主体的な立場にはなりにくい。また「空気を読む」という姿勢は受け身のスタンスになりがちになる。

 定年後にイキイキと生活するポイントは、自らの主体的な姿勢や行動力なのであるが、それとは正反対のことを組織でやっていることになる。そしてその特殊ともいえる社員同士の結びつきは定年退職とともに消え去る。そのため新たな人間関係を築くまでに時間を要する。関係ができずに立ち往生してしまっている人もいるのである。

 読者のなかには、定年後をどのように暮らすかの課題は、当然のように男性を対象にしていると思っている人もいるかもしれない。

 しかし定年後の問題の本質が、定年前後のギャップだとすれば、当然ながら女性も対象になる。特に男女雇用均等法以降を考えれば会社本位スタイルの女性も増えていて同様な課題に直面するのである。

 こうして考えてくると、定年後の自らの姿から逆算して、現在の働き方を見直すという対応策もありうる。

 その方向性は、仕事に注力する自分、仕事以外の関心あることに取り組む自分、家族や友人を大切にする自分など、多様な自分を自らの中に同時に抱え込んでおくことになろう。仕事と生活について言えば、両者を区分・分離するのではなく、相互の良循環をどのようにして生み出すかがポイントになってくる。

 そして、そのようなマインドセットの切り替えは、50歳ぐらいからスタートするのが望ましいと考えられるのだ。

(ビジネス書作家 楠木 新)