中国でも日本でも、コミュニケーションの悩みは共通
佐々木 中国の出版社の方に、『伝え方が9割2』はどんな人が買っているのですかと聞いてみたら、中国の若者世代が買っていると。昔は、知識に対してお金を払うという文化はそこまでなかったんだけど、今は、若者たちを中心に新しい知識を学ぶために積極的にお金を使うようになったという話をされていました。テーマ的には、コミュニケーション、特に職場でのコミュニケーションがうまくいかないことで悩んでいる若者は非常に多くいるというお話です。実際、コミュニケーションの本が中国でも売れているようですね。
「具体例が日本のケースでも分かるんですか?」と聞くと、「たしかにちょっと文化として違う部分はあるけれど、職場での悩みということにフォーカスして考えると、日本でも中国でもそんなに変わらないんじゃないか。変わらないからこそ、ここまでウケてるんじゃないか」という話をされていました。
――「職場という小さなところにフォーカスすると、日本も中国も悩んでいることはほとんど同じ」という分析は面白かったですね。
佐々木 そうですね。上司と部下との関係だったり、「やる気のない部下にどう言えばいいですか」とか、「同僚に何かお願いしたいんだけど、どうすればいいですか」みたいな話というのは、きっと全世界共通で同じ悩みがあるんだろうなと思います。
――今回は、中国のシリコンバレーと呼ばれている中間村(ちゅうかんそん)のエリアで佐々木さんの講演が行われたわけですけれども、お話しされていて何か感じたこととかありましたか。
佐々木 そうですね。通訳の方に訳していただきながらの講演だったので、普通の講演よりはまどろっこしいかったと思うんですよ。にもかかわらず、非常にみんな真剣に聴いていいただいて、「新しい知識をほんとに吸収するぞ!」、という強い意欲を感じましたね。中国は競争が非常に厳しい国だときいています。その中で、何とかして頭一つ飛び抜けるためには、普通でいたらいけないという意識が高いというふうにもうかがいました。そんな意識の高い人たちに集まっていただいたかなと思います。
――当日は参加者が150名を超えて、立ち見の方も出ていた盛況ぶりだったんですけれども、会場の後ろで見ていても熱気を感じました。例えば「イエスに変える7つの切り口」のポイント、ポイントのところで、皆さんメモを取られたりとか、あるいは一斉にスマホで写真を撮られていたりとか、とにかく吸収しようと熱気を感じました。
佐々木 そうですね。皆さんスマホを相当活用されていることも感じました。日本だとSNSにしても比較的テキストメッセージでのやりとりが多いと思うんですが、中国ではメッセージを送るにしても、音声でメッセージを送る文化があるみたいですね。しゃべったデータを相手に送らなくてはいけないから、やっぱり「上手に伝えないとな」という意識も強いのかもしれませんね
――最後の質問タイムでは相当手が挙がっていましたけれど、何か印象的な質問などありましたでしょうか。
佐々木 そうですね。社会人になったばかりの22歳か23歳の女性から手が挙がって、「上司とうまくコミュニケーションができない。何か気をつけることはありますか」という質問を受けました。これは日本でもよく受ける質問なんですね。
そこで僕がお話しをさせていただいたのが、「コミュニケーションがうまくいかないということは、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまっていて、相手のことを想像できていないのではないかと。例えば上司は何が好きで、何が嫌いなのかとか、何にいま興味を持っているかといったことを考えていないと、やはり相手とは上手にコミュニケーションができない。コミュニケーションがうまくいかないと思ったなら、もっと相手のことをもっと想像するといいですよ」というお話しをさせていただきました。
――それは面白いですね。
佐々木 「伝え方の技術は、どうすれば身につけられるんですか」という質問も出ました。対面で話す時に、いきなり伝え方の技術を取り入れるのは簡単ではないので、まずはテキストメッセージでこの本の技術を使っていってください、とお話しをしました。伝え方の技術を身につけてもらうためには、いきなり話すのではなく、まずはよく考えてメールやSNSなどでテキストメッセージを送るといいです。テキストで慣れてコツをつかめば、対面でもできるようになりますから試してみてください、というお話をさせていただきました。
これも、実は日本でよくある質問なんですね。「日本人は伝え下手」っていうふうに世界でも言われているし、自分たちも思っている部分はあると思うんですけど、悩んでいるのは、日本人だけじゃないんだなと。うまく伝わらなくて困っていると感じている人は、世界でもかなりの割合でいるんじゃないかなというふうに思いました。
日本のある団体が昨年行った調査で、「71.4%の人が自分は伝え下手である」と言ってるんですね。
では、中国の人はどのくらいなのかなと思って、講演会の途中で、ちょっと手を挙げてもらいました。「自分は伝えるのが苦手、伝え下手だと思う人」って。すると、会場でザーッと7割ぐらいの方から手が挙がっていったんですね。では、「自分は伝え上手だと思う人」って質問したら、誰も手が挙がりませんでした(笑)。
――たしかに中国の出版社と翻訳のミーティングをしていると、「中間管理職、マネジャーのための、部下を管理する方法とか、コミュニケーションの方法の本はありませんか」というリクエストが、ここ数年増えてきているというのを聞いたことがあります。中国も高度成長を経て、日本と同じような悩みを抱えていることなのでしょうか。
佐々木 「何々しなさい」って、そのまま命令すれば動いていた時代というのは、日本にも昔はあったし、中国にもあったと思うんです。でも今は、そのまま言われれば人がその通りに動くかというと、なかなかそういうことにはならないんでしょうね。例えば「この仕事やって」って言われたら、仕事だからもちろんやるかもしれないですけど、心の中では「面倒くさいな」と思ってイヤイヤやると思んです。でももしこれが、「君はこれ得意だから、この仕事やってくれないかな」っていうふうに言われたとしたら、「あ、やろうかな。頑張ろうかな」という気持ちになりますよね。お願いしていることは同じでも、やっぱり伝え方次第で相手のやる気というものが変わってくるし、仕事のクオリティ自体も変わると思うんです。今回、中国の読者とお話をして、このあたりの感情は、もう言語とか文化とかを超えたものがあるのかなと、思いました。