「日頃言っていることを昇格人事に反映させなければ、優れた組織をつくることはできない。本気なことを示す決定打は、人事において、断固、人格的な真摯さを評価することである。なぜなら、リーダーシップが発揮されるのは、人格においてだからである」(ドラッカー名著集(2)『現代の経営』[上])
ドラッカーによれば、人間のすばらしさは、強みと弱みを含め、多様性にある。同時に、組織のすばらしさは、その多様な人間一人ひとりの強みをフルに発揮させ、弱みを意味のないものにするところにある。
だからドラッカーは、弱みは気にしない。山あれば谷あり。むしろ、まん丸の人間には魅力を感じない。ところが、一つだけ気にせざるをえない弱みというものがある。それが、真摯さの欠如である。真摯さが欠如した者だけは高い地位につけてはならないという。ドラッカーは、この点に関しては恐ろしく具体的である。
人の強みではなく、弱みに焦点を合わせる者をマネジメントの地位につけてはならない。人のできることはなにも見ず、できないことはすべて知っているという者は組織の文化を損なう。何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならない。仕事よりも人を問題にすることは堕落である。
真摯さよりも、頭脳を重視する者を昇進させてはならない。そのような者は未熟である。有能な部下を恐れる者を昇進させてもならない。そのような者は弱い。
仕事に高い基準を設けない者も昇進させてはならない。仕事や能力に対する侮りの風潮を招く。
判断力が不足していても、害をもたらさないことはある。しかし、真摯さに欠けていたのでは、いかに知識があり、才気があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させ、業績を低下させる。
「真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、あとで身につけることはできない。真摯さはごまかしがきかない。一緒に働けば、その者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。部下たちは、無能、無知、頼りなさ、無作法など、ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない」(『現代の経営』[上])