会社への信用も労働生産性も先進国で最低

 これまで「日本人(男性)は会社に強い帰属意識を持っている」とされてきましたが、最近になって、社員の会社への忠誠心を示す「従業員エンゲージメント」指数が日本は先進国中もっとも低く、サラリーマンの3人に1人が「会社に反感を持っている」とか、日本人は「世界でもっとも自分の働く会社を信用していない」などの不都合な調査結果が続々と出てきました。

 しかしこれは考えてみれば当然で、新卒でたまたま入社した会社が自分にとって「天職」である可能性は宝くじに当たるのと同じようなものです。ほとんどのサラリーマンは、やがて宝くじにはずれたことを悟るでしょう。

 最近ようやく指摘されるようになりましたが、日本経済のいちばんの問題は労働生産性が低いことで、OECD34カ国中21位、先進7カ国のなかではずっと最下位です。日本人は過労死するほど働いていますが、一人あたりの労働者が生み出す富(付加価値)は7万2994ドル(約768万円)で、アメリカの労働者(11万6817ドル)の7割以下しかありません(2014年)。これは日本人の能力がアメリカ人より3割も劣っているか、そうでなければ「働き方」の仕組みが間違っているのです。

 知識社会化・グローバル化に適応不全を起こしている日本的経営=雇用は、長時間(サービス残業で)働かされてもぜんぜん儲からず、経営者は部下を能力がないと罵倒し、社員は会社を憎み、国際社会から「差別」だと批判され、日本人の人生はどんどん不幸になるばかりで、なにひとついいことがありません。

 そのうえメディアが「正社員でなければ人生は終わりだ」と若者を恫喝したことで、「社畜礼賛」の風潮に乗って、正社員の若者にサービス残業させて最低賃金以下で使い倒す「ブラック企業」が大量に出現しました。日本的雇用では、終身雇用で生活が安定する代償として会社への忠誠が求められるのですが、ブラック企業は雇用の義務を放棄して滅私奉公のみを強要するのです。

 ブラック企業は労働基準法違反としてきびしく批判されましたが、「一流企業」でも、社員の待遇や福利厚生が恵まれているだけで、サービス残業や長時間労働が常態化している現実は見て見ぬ振りをされます。疫病のように蔓延するブラック企業は例外ではなく、低成長に苦しむ日本経済が発見した「経営イノベーション」であり、日本的雇用の歪んだ構造が生んだ直系の子どもたちなのです。

 幸福について真剣に考えるなら、まずは「サラリーマンという人生」の現実を直視しなければなりません。

(作家 橘玲)