行動経済学は、心理学の理論や分析の手法を応用して、人々の経済行動や金融市場の変動などを解明しようとする経済学の一分野だ。行動経済学の概要を把握するために、これまでの伝統的な経済学との比較を行うとわかりやすい。

 伝統的な経済学の理論には主に二つの特徴がある。

 一つ目は、こうあるべきだという“規範”や“定形”を設定し、それに基づいて理論を構築していることだ。言い換えれば、経済学者が消費や投資行動などを分析しやすいように、ある意味では使い勝手の良い“前提条件”を設定し、モデルが構築されてきた。

 その最たるケースの一つが、「“合理的経済人”=常に、わたしたちは合理的に意思決定を行う」。これは人間が決しておかしなことはしないという前提であり、それを支えるために人々はすべての情報を完全に知っているという“完全情報”が前提だ

 もう一つは、伝統的な経済学は短期よりも、「長期の均衡」に重きを置いてロジックを組み、立てることだ。長期的に人々は合理的に行動し一定の望ましい経済状況が出現することを念頭に置いて理論が構築されてきた。確かに、これには一定の説得力がある。

 ただ、実際のわれわれの生活を振り返ると、「時にはバカなこと=非合理的な行動をする」こともあり、必ずしも合理的な意思決定をしないことがある。徹夜のカラオケ、負けてもなおギャンブルを続ける等、「やらなければよかった」と後悔することは日常茶飯事だ。常に、わたしたちが合理的に行動するとは限らない。

 また、バブルのような短期的な株価の急騰など、伝統的な理論で説明が難しいと考えられる経済現象がある。伝統的な経済学では、そうした前提から外れたことを“アノマリー=例外事象”として、真正面から取り組んでこなかった。

 行動経済学は「人間の非合理的な側面」を解明しようとしてきた。1979年にカーネマンとトヴェルスキーが同額の利益と損失に対する心理的な反応が異なること、統計的に計算される(客観的な)確率をわたしたちの主観がゆがめてしまうことを示して以降、伝統的な経済学では説明が十分でなかった、バブルの発生をはじめとする人間の非合理的な意思決定や短期的な市場の変動、意思決定の在り方に関する研究が進んだ。