運営する本人たちに当事者意識がなくては、「地域を活性化し、地域に根付くチームを作る」ことなど到底できない。地域密着を可能にするために、社内の意識を根本から変えることが急務だった。
「自転車で20分以内のところだけ回ればいい」
「地域の皆さまに愛してもらえるチーム作りを」
これは私が参画してからセレッソの掲げたスローガンである。「愛」という言葉をキャッチフレーズに使ったクラブは、おそらくセレッソが初めてではなかったかと思う。とはいえ現実は厳しかった。実際のところ、セレッソは愛されるよりも前に「存在を知ってもらう」ことから始めなくてはならなかったからだ。試合の告知チラシを配っている社員が、「ガンバは知ってるけど……」と言われたことも一度や二度ではなかった。
大阪には、ガンバ大阪という先行してJリーグ入りした人気チームが存在していた。この事実は変えようがない。ならば、ガンバのテリトリーである大阪北部で戦う必要はない。大阪南部にしっかり根付くことに集中しよう、と決めた。営業には、「自転車で20分以内のところだけ回ればいい」と指示した。
自転車は営業部隊の欠かせない足だった。私も自転車に乗って、割引チケットつきのチラシを配って回った。「お前はこの道、俺はこっち」と手分けして、商店街の店を一軒一軒訪ね歩いた。
自転車で街を行けば、自然と顔見知りが増える。店のご主人や、買い物に来ているご婦人からも声をかけられるようになる。地元"大阪のおばちゃん"にPR用のステッカーを配ってもらったり、商店街の協力を得て、情報発信基地となる「フレンドリーショップ」になってもらうこともできた。
「こちらから地元の方々へ」という一方向のみの働きかけは、ある程度親しくなると双方向のコミュニケーションへと形を変える。「地元の方々にサポートしていただく」という、より効果的な手法が可能になる。少しずつ地元の人とのつながりが出てきたことによって、私たちの中にも、新たなアイデアが次々と生まれ始めた。