生活保護費の引き下げは
なぜ許されるのか?
いま生活保護制度は、1950年の制度創設以来、最大の危機に直面しているのかもしれない。
政治的な事情により、「必要即応」「無差別平等」という生活保護制度の原則が徹底されなくなったのは、1954年(昭和29年)のことだった。戦後の混乱期、生活保護を必要とする人々の急増により、生活保護費は増大する一方だった。大蔵省(当時)はこのことを問題視し、厚生省(当時)は抵抗した。
4年間にわたったバトルは、結局、厚生省が生活保護の「適正化」を受け入れることで決着した。ここで言う「適正化」とは、生活保護の申請を抑制すること、すでに生活保護で暮らしている人々を対象外とすることだった。この「適正化」路線は、程度の強弱や内容の違いはあるものの、現在まで続いている。
2000年代の「適正化」の特徴は、人数・世帯数の増加を抑制することに加えて、個々の世帯に給付される生活保護費の金額を縮小させ始めたことだ。生活費に関しては、世帯類型ごとの特徴に対する「加算」が最初の削減ターゲットとなった。
まず、高齢世帯に対する「老齢加算」が廃止され(2004年度より、2007年度に完全廃止)、ついで、子どもがいるけれども両親の片方または両方がいない世帯に対する「母子加算」(2005年~2008年、2009年度に完全廃止)が廃止された。このうち母子加算は、2009年12月、民主党政権下で復活した。
民主党政権から自民党政権への政権交代を経た2013年以後は、生活費(生活扶助)本体の削減(2013年~2015年、平均6.5%)、冬季の暖房費補助(冬季加算)の削減(2015年より)、住宅費(住宅扶助)の上限額削減(2015年より)と、大きな影響をもたらす引き下げが相次いでいる。
この他、多人数世帯に対する「スケールメリット」を反映した「逓減率」も見直された。私から見ればスケールメリットの過剰見積もりとなっており、多人数世帯に大きな打撃を与えている。心が痛むのは、これらの引き下げから最も大きな影響を受けているのは、複数の子どもがいる生活保護世帯であることだ。